猫の罪深い料理店~迷子さんの拠り所~

碧野葉菜

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奇妙な仲間たち

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「ならその気持ち、全部奥さんに話してみたらどうですか?」
「え……しかし、離婚したいと言われているのに?」
「本気で今すぐ別れたいなら、離婚届にサインして突きつけてくると思いますけど」

 お膳立てしているのではなく、率直な意見だ。部長はまごまごしながら「そう、か?」と自問するようにつぶやいた。

「……話、聞いてくれると思うかね?」
「知りませんよ。ただ……部長の好きなもの作ってくれる人なら、努力してみる価値はあるかなと思っただけです」

 一方が疲れたら、もう一方ががんばる。
 手の差し伸べ合い。それができないと、きっと人間関係は上手くいかない。
 できていないのに円満に見えるのは、ただの偽物。どちらか片方が潰れるほど耐え抜いているだけ。

「今まで自分が悪いと思った部分と、改善策を箇条書きして渡すのもいいかと」
「おいおい、仕事のように言わないでくれ」

 私は大真面目に言ったつもりだったが、なぜか部長は軽く吹き出して笑っていた。

「……部下にそこまで言われちゃあ、話してみるか、来月の盆休みにでも」
「善は急げですよ、ぜひ次の休みに」
「いきなりは、心の準備が……じゃ、じゃあ間を取って来週辺りに」

 急な決断を迫られひよる部長の左手に、突然明かりが宿ったかと思うと、細長い紙片が現れた。
 箸を持たない方の手に生まれた感触を、咄嗟に握りしめた部長は目をパチクリさせていた。
 私も同じ顔を作っていただろう。
 なにかのチケットのような薄っぺらい紙が二枚、部長の短い指に包まれていた。
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