92 / 206
奇妙な仲間たち
55
しおりを挟む
「ならその気持ち、全部奥さんに話してみたらどうですか?」
「え……しかし、離婚したいと言われているのに?」
「本気で今すぐ別れたいなら、離婚届にサインして突きつけてくると思いますけど」
お膳立てしているのではなく、率直な意見だ。部長はまごまごしながら「そう、か?」と自問するようにつぶやいた。
「……話、聞いてくれると思うかね?」
「知りませんよ。ただ……部長の好きなもの作ってくれる人なら、努力してみる価値はあるかなと思っただけです」
一方が疲れたら、もう一方ががんばる。
手の差し伸べ合い。それができないと、きっと人間関係は上手くいかない。
できていないのに円満に見えるのは、ただの偽物。どちらか片方が潰れるほど耐え抜いているだけ。
「今まで自分が悪いと思った部分と、改善策を箇条書きして渡すのもいいかと」
「おいおい、仕事のように言わないでくれ」
私は大真面目に言ったつもりだったが、なぜか部長は軽く吹き出して笑っていた。
「……部下にそこまで言われちゃあ、話してみるか、来月の盆休みにでも」
「善は急げですよ、ぜひ次の休みに」
「いきなりは、心の準備が……じゃ、じゃあ間を取って来週辺りに」
急な決断を迫られひよる部長の左手に、突然明かりが宿ったかと思うと、細長い紙片が現れた。
箸を持たない方の手に生まれた感触を、咄嗟に握りしめた部長は目をパチクリさせていた。
私も同じ顔を作っていただろう。
なにかのチケットのような薄っぺらい紙が二枚、部長の短い指に包まれていた。
「え……しかし、離婚したいと言われているのに?」
「本気で今すぐ別れたいなら、離婚届にサインして突きつけてくると思いますけど」
お膳立てしているのではなく、率直な意見だ。部長はまごまごしながら「そう、か?」と自問するようにつぶやいた。
「……話、聞いてくれると思うかね?」
「知りませんよ。ただ……部長の好きなもの作ってくれる人なら、努力してみる価値はあるかなと思っただけです」
一方が疲れたら、もう一方ががんばる。
手の差し伸べ合い。それができないと、きっと人間関係は上手くいかない。
できていないのに円満に見えるのは、ただの偽物。どちらか片方が潰れるほど耐え抜いているだけ。
「今まで自分が悪いと思った部分と、改善策を箇条書きして渡すのもいいかと」
「おいおい、仕事のように言わないでくれ」
私は大真面目に言ったつもりだったが、なぜか部長は軽く吹き出して笑っていた。
「……部下にそこまで言われちゃあ、話してみるか、来月の盆休みにでも」
「善は急げですよ、ぜひ次の休みに」
「いきなりは、心の準備が……じゃ、じゃあ間を取って来週辺りに」
急な決断を迫られひよる部長の左手に、突然明かりが宿ったかと思うと、細長い紙片が現れた。
箸を持たない方の手に生まれた感触を、咄嗟に握りしめた部長は目をパチクリさせていた。
私も同じ顔を作っていただろう。
なにかのチケットのような薄っぺらい紙が二枚、部長の短い指に包まれていた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説


羅刹の花嫁 〜帝都、鬼神討伐異聞〜
長月京子
キャラ文芸
自分と目をあわせると、何か良くないことがおきる。
幼い頃からの不吉な体験で、葛葉はそんな不安を抱えていた。
時は明治。
異形が跋扈する帝都。
洋館では晴れやかな婚約披露が開かれていた。
侯爵令嬢と婚約するはずの可畏(かい)は、招待客である葛葉を見つけると、なぜかこう宣言する。
「私の花嫁は彼女だ」と。
幼い頃からの不吉な体験ともつながる、葛葉のもつ特別な異能。
その力を欲して、可畏(かい)は葛葉を仮初の花嫁として事件に同行させる。
文明開化により、華やかに変化した帝都。
頻出する異形がもたらす、怪事件のたどり着く先には?
人と妖、異能と異形、怪異と思惑が錯綜する和風ファンタジー。
(※絵を描くのも好きなので表紙も自作しております)
第7回ホラー・ミステリー小説大賞で奨励賞をいただきました。
ありがとうございました!
後宮物語〜身代わり宮女は皇帝に溺愛されます⁉︎〜
菰野るり
キャラ文芸
寵愛なんていりません!身代わり宮女は3食昼寝付きで勉強がしたい。
私は北峰で商家を営む白(パイ)家の長女雲泪(ユンルイ)
白(パイ)家第一夫人だった母は私が小さい頃に亡くなり、家では第二夫人の娘である璃華(リーファ)だけが可愛がられている。
妹の後宮入りの用意する為に、両親は金持ちの薬屋へ第五夫人の縁談を準備した。爺さんに嫁ぐ為に生まれてきたんじゃない!逃げ出そうとする私が出会ったのは、後宮入りする予定の御令嬢が逃亡してしまい責任をとって首を吊る直前の宦官だった。
利害が一致したので、わたくし銀蓮(インリェン)として後宮入りをいたします。
雲泪(ユンレイ)の物語は完結しました。続きのお話は、堯舜(ヤオシュン)の物語として別に連載を始めます。近日中に始めますので、是非、お気に入りに登録いただき読みにきてください。お願いします。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

猫になったお嬢様
毒島醜女
キャラ文芸
自由を夢見るお嬢様、美也は偉そうな教師や意地悪な妹とメイドたちにイライラする毎日。
ある日、蔵でうっかり壺を壊してしまうと中から封印された妖が現れた。
「あなたの願いをなんでも叶えます」
彼の言葉に、美也は迷うことなく「猫になりたい!」と告げる。
メンタル最強なお嬢様が、最高で最強な猫になる話。

裏路地古民家カフェでまったりしたい
雪那 由多
大衆娯楽
夜月燈火は亡き祖父の家をカフェに作り直して人生を再出発。
高校時代の友人と再会からの有無を言わさぬ魔王の指示で俺の意志一つなくリフォームは進んでいく。
あれ?
俺が思ったのとなんか違うけどでも俺が想像したよりいいカフェになってるんだけど予算内ならまあいいか?
え?あまい?
は?コーヒー不味い?
インスタントしか飲んだ事ないから分かるわけないじゃん。
はい?!修行いって来い???
しかも棒を銜えて筋トレってどんな修行?!
その甲斐あって人通りのない裏路地の古民家カフェは人はいないが穏やかな時間とコーヒーの香りと周囲の優しさに助けられ今日もオープンします。
第6回ライト文芸大賞で奨励賞を頂きました!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる