86 / 206
奇妙な仲間たち
49
しおりを挟む
理性を忘れて食らいつきそうになる自分に、もう一人の自分が寸前で待ったをかける。
本当に今の勢いのまま口にしていいのか。
少し落ち着いてから、せめて食べ方くらい上品にするべきではないか。
前回の一気食いを振り返り、それを目の当たりにした猫宮さんの心境を深読みする。
食べ方の汚い女性だって、不快にさせたんじゃないだろうか。
「どうしたんだ、食べないのか」
「よだれが出てるでちよ」
視界の左端でにまにま笑う牛とネズミ。
「お腹空いてるんでしょう? 今日も一日お疲れさま」
ハンバーガータワーの傍らに見える、カウンター越しの猫宮さんが、労いという名のごちそうまで与えてくれる。
キラキラ輝く背景が、蜂蜜色のシャボン玉のように私の感覚をぼやけさせる。
猫宮さんは片手を伸ばすと、私の肩にそっと添えた。
そして安心させるように、渾身の笑みを贈った。
「大丈夫だよ、いっぱい食べる君が好き」
――あ、食べよ。
悩む余地を許さない、最強の殺し文句。
猫宮さんの微笑は美笑だ。美しい笑いと書いて美笑。誤字にあらず。
脳内で新しい文字を生み出している間も手が止まることはなく、無意識に着席していた私は目の前の食事にかぶりついていた。
両足きっちり整えて、背筋を伸ばして、小さな口で、決してこぼさず、音なく食べる。
それが彼女の教えで、我が家の食卓だった。
『行儀がなってないと人にバカにされる。あんたのために言ってるんだからね』
お母さん、私は今足も揃えていないし、猫背の大口で身体に悪そうなものを食べています。
本当に、あなたの娘は最低なダメ人間です。
本当に今の勢いのまま口にしていいのか。
少し落ち着いてから、せめて食べ方くらい上品にするべきではないか。
前回の一気食いを振り返り、それを目の当たりにした猫宮さんの心境を深読みする。
食べ方の汚い女性だって、不快にさせたんじゃないだろうか。
「どうしたんだ、食べないのか」
「よだれが出てるでちよ」
視界の左端でにまにま笑う牛とネズミ。
「お腹空いてるんでしょう? 今日も一日お疲れさま」
ハンバーガータワーの傍らに見える、カウンター越しの猫宮さんが、労いという名のごちそうまで与えてくれる。
キラキラ輝く背景が、蜂蜜色のシャボン玉のように私の感覚をぼやけさせる。
猫宮さんは片手を伸ばすと、私の肩にそっと添えた。
そして安心させるように、渾身の笑みを贈った。
「大丈夫だよ、いっぱい食べる君が好き」
――あ、食べよ。
悩む余地を許さない、最強の殺し文句。
猫宮さんの微笑は美笑だ。美しい笑いと書いて美笑。誤字にあらず。
脳内で新しい文字を生み出している間も手が止まることはなく、無意識に着席していた私は目の前の食事にかぶりついていた。
両足きっちり整えて、背筋を伸ばして、小さな口で、決してこぼさず、音なく食べる。
それが彼女の教えで、我が家の食卓だった。
『行儀がなってないと人にバカにされる。あんたのために言ってるんだからね』
お母さん、私は今足も揃えていないし、猫背の大口で身体に悪そうなものを食べています。
本当に、あなたの娘は最低なダメ人間です。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。
Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。
そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。
だが夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。
これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)
スキル盗んで何が悪い!
大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物
"スキル"それは人が持つには限られた能力
"スキル"それは一人の青年の運命を変えた力
いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。
本人はこれからも続く生活だと思っていた。
そう、あのゲームを起動させるまでは……
大人気商品ワールドランド、略してWL。
ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。
しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……
女の子の正体は!? このゲームの目的は!?
これからどうするの主人公!
【スキル盗んで何が悪い!】始まります!
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

完結 この手からこぼれ落ちるもの
ポチ
恋愛
やっと、本当のことが言えるよ。。。
長かった。。
君は、この家の第一夫人として
最高の女性だよ
全て君に任せるよ
僕は、ベリンダの事で忙しいからね?
全て君の思う通りやってくれれば良いからね?頼んだよ
僕が君に触れる事は無いけれど
この家の跡継ぎは、心配要らないよ?
君の父上の姪であるベリンダが
産んでくれるから
心配しないでね
そう、優しく微笑んだオリバー様
今まで優しかったのは?
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

戦いに行ったはずの騎士様は、女騎士を連れて帰ってきました。
新野乃花(大舟)
恋愛
健気にカサルの帰りを待ち続けていた、彼の婚約者のルミア。しかし帰還の日にカサルの隣にいたのは、同じ騎士であるミーナだった。親し気な様子をアピールしてくるミーナに加え、カサルもまた満更でもないような様子を見せ、ついにカサルはルミアに婚約破棄を告げてしまう。これで騎士としての真実の愛を手にすることができたと豪語するカサルであったものの、彼はその後すぐにあるきっかけから今夜破棄を大きく後悔することとなり…。
EX級アーティファクト化した介護用ガイノイドと行く未来異星世界遺跡探索~君と添い遂げるために~
青空顎門
SF
病で余命宣告を受けた主人公。彼は介護用に購入した最愛のガイノイド(女性型アンドロイド)の腕の中で息絶えた……はずだったが、気づくと彼女と共に見知らぬ場所にいた。そこは遥か未来――時空間転移技術が暴走して崩壊した後の時代、宇宙の遥か彼方の辺境惑星だった。男はファンタジーの如く高度な技術の名残が散見される世界で、今度こそ彼女と添い遂げるために未来の超文明の遺跡を巡っていく。
※小説家になろう様、カクヨム様、ノベルアップ+様、ノベルバ様にも掲載しております。

こちら、付喪神対策局
柚木ゆず
キャラ文芸
長年大事にされてきた物に精霊が宿って誕生する、付喪神。極まれにその際に精霊の頃の記憶を失ってしまい、『名』を忘れたことで暴走してしまう付喪神がいます。
付喪神対策局。
それは、そんな付喪神を救うための組織。
対策局のメンバーである神宮寺冬馬と月夜見鏡は今夜も、そんな付喪神を救うために東京の空の下を駆けるのでした――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる