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奇妙な仲間たち
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「さあさ、どうぞ、お好きな席へ」
なぜだか前回より気安く感じる、猫宮さんの接客に促され、静かに足を進めた。
それにしても、今日も他にお客さんはいないのだろうか?
昨日来た時と同じように、店内はガランとして私一人がポツンと座る。
カウンターの隅に目をやると、相変わらず干支の置き物が横一列に並んでいた。
そこから視線をスライドさせ、正面に戻すと、すぐそこに猫宮さんがいるわけだけれど。
仕切りを隔てた先に立つ彼は、瞳がすっかり隠れてしまうほど機嫌よさそうに笑っていた。
「……あの、なんでそんなに、ニコニコしてるんですか?」
「そりゃあ嬉しいからだよ! 前はすーごく離れたところに座ったのに、今日は僕の目の前に来てくれたんだもん」
笑顔の理由を聞かされた私は、初めて自分の行動に気づいた。
誰に誘導されたわけでもない、私は私自身の意志で、猫宮さんに一番近い椅子を選んだのだ。
「こ、これはっ、お、お話しているのに失礼かなと、思ったのとっ」
「うんうん」
「は、離れた場所に座っても、なぜだか目の前にいたのでっ、別に、どこでも同じことかなって!」
ダメだ。
焦ると余計に傷口が広がる気がする。
こんな滑稽な姿、きっと見るに堪えないもので、私ならバカにするかもしれない。
けれど猫宮さんは穏やかに微笑んだまま、絶妙なタイミングで相槌を打っていた。
「そっか、なるほど、君は賢くて優しいんだね」
この店の主ときたら、容姿だけではなくお世辞まで完璧なようだ。
なぜだか前回より気安く感じる、猫宮さんの接客に促され、静かに足を進めた。
それにしても、今日も他にお客さんはいないのだろうか?
昨日来た時と同じように、店内はガランとして私一人がポツンと座る。
カウンターの隅に目をやると、相変わらず干支の置き物が横一列に並んでいた。
そこから視線をスライドさせ、正面に戻すと、すぐそこに猫宮さんがいるわけだけれど。
仕切りを隔てた先に立つ彼は、瞳がすっかり隠れてしまうほど機嫌よさそうに笑っていた。
「……あの、なんでそんなに、ニコニコしてるんですか?」
「そりゃあ嬉しいからだよ! 前はすーごく離れたところに座ったのに、今日は僕の目の前に来てくれたんだもん」
笑顔の理由を聞かされた私は、初めて自分の行動に気づいた。
誰に誘導されたわけでもない、私は私自身の意志で、猫宮さんに一番近い椅子を選んだのだ。
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「うんうん」
「は、離れた場所に座っても、なぜだか目の前にいたのでっ、別に、どこでも同じことかなって!」
ダメだ。
焦ると余計に傷口が広がる気がする。
こんな滑稽な姿、きっと見るに堪えないもので、私ならバカにするかもしれない。
けれど猫宮さんは穏やかに微笑んだまま、絶妙なタイミングで相槌を打っていた。
「そっか、なるほど、君は賢くて優しいんだね」
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