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奇妙な仲間たち
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「あ、あの、店というのは」
ドクドクと脈を弾ませながら、念のために聞いてみる。
すると彼は穏やかな表情のまま答える。
瞳の球体を横長に細めながら。
――やっぱり、見間違いじゃなかった。
「猫宮くんの店です」
その名前を耳にした時、足が宙を彷徨う感覚に駆られた。
仕事で使用されるありきたりな室内が、光の滲む闇夜へと変化するようだ。
日常に飛び込む蜂蜜色の輝き。
あの人はここに来てもいないのに、私の視野を容易く奪う。
「ど、どうして……?」
少し変わった雰囲気の人だとは思った。
けれどそれだけでは、納得いかない部分が多々ある。
なぜ私が料理店の客だとわかったのか。
そして彼は、何者なのか。
密室で向かい合った相手に、警戒心を持って問いかけた。
「その様子ではまだ行き慣れていないようですね、音がするんです」
「音……?」
拾った単語を確かめるように復唱すると、彼は小さな頷きを見せた。
「はい、リーンと、店に入る時と同じ不思議な音色、それで客だとわかるんです」
こんな言葉だけで理解に及ぶ私は、他の人からすれば普通ではないのだろう。
どうやら彼らにしか聞こえない鈴の音で、料理店と関わりがある人間だとわかるようだ。
彼は背後に回していた腕を前に出すと、右手を顎に添え、その肘を左手で支え考える姿勢を取った。
「しかし記憶の土産は十二支の置き物だったはず、なのにあなたは珍しい腕飾りをしていますね」
腕飾り……聞き慣れない言い方だが、なにを指しているかは明白だった。
私の右手首を彩る金の糸。丸い鈴。
出会った第一声の「珍しいもの」は、このことだったに違いない。
そっと、存在を確認するように、左手でお守りを包むように触れた。
ドクドクと脈を弾ませながら、念のために聞いてみる。
すると彼は穏やかな表情のまま答える。
瞳の球体を横長に細めながら。
――やっぱり、見間違いじゃなかった。
「猫宮くんの店です」
その名前を耳にした時、足が宙を彷徨う感覚に駆られた。
仕事で使用されるありきたりな室内が、光の滲む闇夜へと変化するようだ。
日常に飛び込む蜂蜜色の輝き。
あの人はここに来てもいないのに、私の視野を容易く奪う。
「ど、どうして……?」
少し変わった雰囲気の人だとは思った。
けれどそれだけでは、納得いかない部分が多々ある。
なぜ私が料理店の客だとわかったのか。
そして彼は、何者なのか。
密室で向かい合った相手に、警戒心を持って問いかけた。
「その様子ではまだ行き慣れていないようですね、音がするんです」
「音……?」
拾った単語を確かめるように復唱すると、彼は小さな頷きを見せた。
「はい、リーンと、店に入る時と同じ不思議な音色、それで客だとわかるんです」
こんな言葉だけで理解に及ぶ私は、他の人からすれば普通ではないのだろう。
どうやら彼らにしか聞こえない鈴の音で、料理店と関わりがある人間だとわかるようだ。
彼は背後に回していた腕を前に出すと、右手を顎に添え、その肘を左手で支え考える姿勢を取った。
「しかし記憶の土産は十二支の置き物だったはず、なのにあなたは珍しい腕飾りをしていますね」
腕飾り……聞き慣れない言い方だが、なにを指しているかは明白だった。
私の右手首を彩る金の糸。丸い鈴。
出会った第一声の「珍しいもの」は、このことだったに違いない。
そっと、存在を確認するように、左手でお守りを包むように触れた。
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