猫の罪深い料理店~迷子さんの拠り所~

碧野葉菜

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奇妙な仲間たち

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「ほほう、ふうむ、これは珍しいものをお持ちで……いいですね、興味があります」

 細身で長身の彼は、私の顔を観察するようにぐいぐい覗き込んでくる。
 唐突な接近に、意味不明な言葉。
 驚きでなにも言えずたじろいでいると、白鳥さんではない方の受付嬢が声をかけてくれた。
 社名と名前、今日の要件など、私が言えなかったことを代わりに告げてくれる。
 すると未國社長はすっと背筋を伸ばし、にこやかに微笑んだ。

「私も同席させてもらいます」
「え……ええっ!?」

 あまりに近づいてくるので反らし気味だった背中を一気に元に戻す。
 
「なにか、いけませんか?」
「いえ、いけないことはありませんが……わざわざ社長にご参加いただくなんて」

 預金管理のシステムはもちろん大切なことではあるが、商談するのは現場の責任者と決まっている。
 小規模や中小企業の社長ならいざ知らず。こんな大きな組織のお偉いさんは椅子に座るがまま、まとめられた資料に目を通し、イエスかノーのサインをするだけ……のはずなのだが。
 
「私が個人的理由で見たいだけなので」

 彼は例に当てはまらないらしい。
 個人的理由とは一体なんなのか、定かでなくても取引先のトップの希望を断る術はない。悲しき会社員のさがよ。

「わかりました、よろしくお願いいたします」
「はい、こちらこそよろしく」

 しなる目尻、細かな皺に縁取られた瞳が――一瞬横長に見えたのは気のせいだろうか。
 上下のまつ毛をパシパシと触れ合わせているうちに、当の彼は私から離れていた。背中で手を組み、鼻歌混じりによくわからない壁掛けの絵画を眺め歩いている。
 
「いい人なんですけどね、少し変わった方で……」

 遠巻きにいる社長に聞こえないように、受付嬢がこそっと教えてくれた。
 この自由な感じ、昨夜味わった奇妙と似通っている。
 ――まさかね。
 白鳥さんは依然として黙ったまま、爛々とした目だけで私に語りかけていた。
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