猫の罪深い料理店~迷子さんの拠り所~

碧野葉菜

文字の大きさ
上 下
51 / 206
奇妙な仲間たち

14

しおりを挟む
「ほほう、ふうむ、これは珍しいものをお持ちで……いいですね、興味があります」

 細身で長身の彼は、私の顔を観察するようにぐいぐい覗き込んでくる。
 唐突な接近に、意味不明な言葉。
 驚きでなにも言えずたじろいでいると、白鳥さんではない方の受付嬢が声をかけてくれた。
 社名と名前、今日の要件など、私が言えなかったことを代わりに告げてくれる。
 すると未國社長はすっと背筋を伸ばし、にこやかに微笑んだ。

「私も同席させてもらいます」
「え……ええっ!?」

 あまりに近づいてくるので反らし気味だった背中を一気に元に戻す。
 
「なにか、いけませんか?」
「いえ、いけないことはありませんが……わざわざ社長にご参加いただくなんて」

 預金管理のシステムはもちろん大切なことではあるが、商談するのは現場の責任者と決まっている。
 小規模や中小企業の社長ならいざ知らず。こんな大きな組織のお偉いさんは椅子に座るがまま、まとめられた資料に目を通し、イエスかノーのサインをするだけ……のはずなのだが。
 
「私が個人的理由で見たいだけなので」

 彼は例に当てはまらないらしい。
 個人的理由とは一体なんなのか、定かでなくても取引先のトップの希望を断る術はない。悲しき会社員のさがよ。

「わかりました、よろしくお願いいたします」
「はい、こちらこそよろしく」

 しなる目尻、細かな皺に縁取られた瞳が――一瞬横長に見えたのは気のせいだろうか。
 上下のまつ毛をパシパシと触れ合わせているうちに、当の彼は私から離れていた。背中で手を組み、鼻歌混じりによくわからない壁掛けの絵画を眺め歩いている。
 
「いい人なんですけどね、少し変わった方で……」

 遠巻きにいる社長に聞こえないように、受付嬢がこそっと教えてくれた。
 この自由な感じ、昨夜味わった奇妙と似通っている。
 ――まさかね。
 白鳥さんは依然として黙ったまま、爛々とした目だけで私に語りかけていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

高校生なのに娘ができちゃった!?

まったりさん
キャラ文芸
不思議な桜が咲く島に住む主人公のもとに、主人公の娘と名乗る妙な女が現われた。その女のせいで主人公の生活はめちゃくちゃ、最初は最悪だったが、段々と主人公の気持ちが変わっていって…!? そうして、紅葉が桜に変わる頃、物語の幕は閉じる。

【完結】伯爵の愛は狂い咲く

白雨 音
恋愛
十八歳になったアリシアは、兄の友人男爵子息のエリックに告白され、婚約した。 実家の商家を手伝い、友人にも恵まれ、アリシアの人生は充実し、順風満帆だった。 だが、町のカーニバルの夜、それを脅かす出来事が起こった。 仮面の男が「見つけた、エリーズ!」と、アリシアに熱く口付けたのだ! そこから、アリシアの運命の歯車は狂い始めていく。 両親からエリックとの婚約を解消し、年の離れた伯爵に嫁ぐ様に勧められてしまう。 「結婚は愛した人とします!」と抗うアリシアだが、運命は彼女を嘲笑い、 その渦に巻き込んでいくのだった… アリシアを恋人の生まれ変わりと信じる伯爵の執愛。 異世界恋愛、短編:本編(アリシア視点)前日譚(ユーグ視点) 《完結しました》

【完結】緑の手を持つ花屋の私と、茶色の手を持つ騎士団長

五城楼スケ(デコスケ)
ファンタジー
〜花が良く育つので「緑の手」だと思っていたら「癒しの手」だったようです〜 王都の隅っこで両親から受け継いだ花屋「ブルーメ」を経営するアンネリーエ。 彼女のお店で売っている花は、色鮮やかで花持ちが良いと評判だ。 自分で花を育て、売っているアンネリーエの店に、ある日イケメンの騎士が現れる。 アンネリーエの作る花束を気に入ったイケメン騎士は、一週間に一度花束を買いに来るようになって──? どうやらアンネリーエが育てている花は、普通の花と違うらしい。 イケメン騎士が買っていく花束を切っ掛けに、アンネリーエの隠されていた力が明かされる、異世界お仕事ファンタジーです。 *HOTランキング1位、エールに感想有難うございました!とても励みになっています! ※花の名前にルビで解説入れてみました。読みやすくなっていたら良いのですが。(;´Д`)  話の最後にも花の名前の解説を入れてますが、間違ってる可能性大です。  雰囲気を味わってもらえたら嬉しいです。 ※完結しました。全41話。  お読みいただいた皆様に感謝です!(人´∀`).☆.。.:*・゚

カルム

黒蝶
キャラ文芸
「…人間って難しい」 小さな頃からの経験により、人間嫌いになった翡翠色の左眼を持つ主人公・翡翠八尋(ヒスイ ヤヒロ)は、今日も人間ではない者たちと交流を深めている。 すっぱり解決…とはいかないものの、頼まれると断れない彼はついつい依頼を受けてしまう。 相棒(?)の普通の人間の目には視えない小鳥・瑠璃から助言をもらいながら、今日もまた光さす道を目指す。 死霊に妖、怪異…彼等に感謝の言葉をかけられる度、ある存在のことを強く思い出す八尋。 けれどそれは、決して誰かに話せるようなものではなく…。 これは、人間と関われない人と、彼と出会った人たちの物語。

香死妃(かしひ)は香りに埋もれて謎を解く 

液体猫(299)
キャラ文芸
第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞受賞しました(^_^)/  香を操り、死者の想いを知る一族がいる。そう囁かれたのは、ずっと昔の話だった。今ではその一族の生き残りすら見ず、誰もが彼ら、彼女たちの存在を忘れてしまっていた。  ある日のこと、一人の侍女が急死した。原因は不明で、解決されないまま月日が流れていき……  その事件を解決するために一人の青年が動き出す。その過程で出会った少女──香 麗然《コウ レイラン》──は、忘れ去られた一族の者だったと知った。  香 麗然《コウ レイラン》が後宮に現れた瞬間、事態は動いていく。  彼女は香りに秘められた事件を解決。ついでに、ぶっきらぼうな青年兵、幼い妃など。数多の人々を無自覚に誑かしていった。  テンパると田舎娘丸出しになる香 麗然《コウ レイラン》と謎だらけの青年兵がダッグを組み、数々の事件に挑んでいく。  後宮の闇、そして人々の想いを描く、後宮恋愛ミステリーです。 不定期投稿となります。

夕暮れカフェ◆ 公園通り恋物語◆

まゆら
キャラ文芸
桜ヶ丘公園通りで双子の姉妹夕陽と夕凪が営むカフェと下宿屋さざなみハイツの住人等、彼女たちを巡る人々の人間模様、恋模様。 可愛いもふもふ達も登場します! のんびり、ゆったりとした物語。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...