猫の罪深い料理店~迷子さんの拠り所~

碧野葉菜

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奇妙な仲間たち

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「……そっちこそ私を妬んでるんじゃないの?」

 斜め後ろにいる、私より頭一つ分低い彼女を睨みつけた。

「あなた、確か高卒だったわよね? 職も転々としてるし、キャリアのある私が気に入らないんでしょう? だからそんなセリフが出るのよ」

 藤本さんは真っ赤にした顔を歪め、手鏡を握りしめて怒りに震えた。
 その隣にいる笹原くんは、彼女とは正反対に真っ青な顔で慌てふためいている。
 エレベーターが音もなく停止し、滑らかに扉が開いた。

「その顔、大好きな男性陣に見せてあげたら? いいわよね、派遣は嫌になったらすぐに辞められて」

 それだけ言い放つと、ツンと顔を背け七階に踏み出す。
 売り言葉に買い言葉だ。
 お互い様? 
 冗談じゃない。
 あんな価値のない人間と同じ程度まで下がって、言い返すつもりなんてなかったのに。
 
『そういうの、男性は嫌いですよ』
 
 大きすぎるお世話だ。
 でも……だとしたら、仮に男性であろう〝彼〟も、私のことを嫌うだろうか。
 こんな冗談一つ言えない私を見て、面白いと声を上げて笑ってくれたあの人も――。
 ――バカバカしい。
 こんなことを考えるの自体が間違いだ。
 男に尻尾を振るしか脳のない女の言うこと、真に受ける必要なんてない。
 学歴は努力の証、出世は成功の証。
 すべてを得た私に問題なんてあるはずがない。
 それなのに、どうして?
 こんなにみじめな気分になるのだろう。
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