猫の罪深い料理店~迷子さんの拠り所~

碧野葉菜

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奇妙な仲間たち

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 キッチンの壁と対面し、今日食べる予定のメニューを確認する。
 糖質と肉っけのない品々を見ていると、どこからかまったりとした甘さがやってくる。
 ひんやりとした柔らかなコクが、記憶を通じて口内で再現される。
 ――美味しかったな、昨日のパフェ。
 うっかり涎を垂らしそうな自分に気づき、急いで顎を引き締めた。
 食べ物を想像して唾が増えるなんて、初めての経験だ。
 気を取り直してキッチンに向かい、朝食の前にお弁当作りをする。
 ――あの店だと、準備とかないのかな。 
 どう見てもなにもない空間からいきなり出していた。
 魔法の類で料理が出せるなら羨ましいことこの上ない。
 トントンと、キッチン台で食材を切る音が響く。右手とともに振動するお守りに、こんなもの会社につけていっていいのかな、と素朴な疑問が浮かぶ。
 いや、もしかしたらこの物体も、私にしか見えないとか?
 少しワクワクするような、子供じみた感情が芽吹く。
 自分でも気づかないうちに微笑みを漏らしたあと、ふと動きを止めて顔を上げた。
 あれ、そういえば……と、思った時にはけたたましい鳴き声が止んでいた。

「……一体なんだったの」

 まあ、いっか。とまな板に視線を戻し再びトマトを切る。
 数分後、頭痛が和らいでいたことを知った私は、薬に頼らず家を出た。
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