猫の罪深い料理店~迷子さんの拠り所~

碧野葉菜

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出会いの夜

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「今月分のお金、まだ振り込まれてないようだけど」
「え……? あっ、そ、そう、だったかな? 最近忙しかったから」

 電話口から聞こえる、肺の底から吐き出したようなため息。今お母さんがどんな顔をしているのか、鮮明にわかる。

「あんたはそうやっていっつもいっつも、昔っから言い訳ばかり、そんなんだからなにやっても上手くいかないんだよ」

 いけない。間違えた。
 ここは先に謝るべきだったのに。

「第一なに? 課長だって? それにどんな価値があるってんだい。人が苦労して小さな頃からお金をかけて育ててきてやったのに、結局医者になれやしなかったじゃないか」

 止まらないお母さんの怒りに頷きながら「ごめんなさい」と謝るしかない。
 遠く離れて見えるはずもないのに、背中が前に折れ曲がる。

「出来の悪い娘を持って本当に私はかわいそうな母親だよ、せめて生活費くらい面倒見るのが罪滅ぼしってもんだろう」
「うん……そう、だね、本当にごめんなさい、すぐにネットバンクから振り込むから」
「当たり前だよ、じゃあね」

 間髪入れずにプツリと切れる通話。
 途切れた無音がやけに虚しく時を刻む。

「……お金、入れなきゃ」

 耳元から目の前へ、スマートフォンを移動させて銀行のサイトにアクセスする。
 暗証番号を入れログインし、唯一登録してある送金先を選ぶ。
 このメガバンクのネット環境には、私が開発に携わったシステムが搭載されている。
 
「……がんばったんだけどな」
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