35 / 206
出会いの夜
34
しおりを挟む
「今月分のお金、まだ振り込まれてないようだけど」
「え……? あっ、そ、そう、だったかな? 最近忙しかったから」
電話口から聞こえる、肺の底から吐き出したようなため息。今お母さんがどんな顔をしているのか、鮮明にわかる。
「あんたはそうやっていっつもいっつも、昔っから言い訳ばかり、そんなんだからなにやっても上手くいかないんだよ」
いけない。間違えた。
ここは先に謝るべきだったのに。
「第一なに? 課長だって? それにどんな価値があるってんだい。人が苦労して小さな頃からお金をかけて育ててきてやったのに、結局医者になれやしなかったじゃないか」
止まらないお母さんの怒りに頷きながら「ごめんなさい」と謝るしかない。
遠く離れて見えるはずもないのに、背中が前に折れ曲がる。
「出来の悪い娘を持って本当に私はかわいそうな母親だよ、せめて生活費くらい面倒見るのが罪滅ぼしってもんだろう」
「うん……そう、だね、本当にごめんなさい、すぐにネットバンクから振り込むから」
「当たり前だよ、じゃあね」
間髪入れずにプツリと切れる通話。
途切れた無音がやけに虚しく時を刻む。
「……お金、入れなきゃ」
耳元から目の前へ、スマートフォンを移動させて銀行のサイトにアクセスする。
暗証番号を入れログインし、唯一登録してある送金先を選ぶ。
このメガバンクのネット環境には、私が開発に携わったシステムが搭載されている。
「……がんばったんだけどな」
「え……? あっ、そ、そう、だったかな? 最近忙しかったから」
電話口から聞こえる、肺の底から吐き出したようなため息。今お母さんがどんな顔をしているのか、鮮明にわかる。
「あんたはそうやっていっつもいっつも、昔っから言い訳ばかり、そんなんだからなにやっても上手くいかないんだよ」
いけない。間違えた。
ここは先に謝るべきだったのに。
「第一なに? 課長だって? それにどんな価値があるってんだい。人が苦労して小さな頃からお金をかけて育ててきてやったのに、結局医者になれやしなかったじゃないか」
止まらないお母さんの怒りに頷きながら「ごめんなさい」と謝るしかない。
遠く離れて見えるはずもないのに、背中が前に折れ曲がる。
「出来の悪い娘を持って本当に私はかわいそうな母親だよ、せめて生活費くらい面倒見るのが罪滅ぼしってもんだろう」
「うん……そう、だね、本当にごめんなさい、すぐにネットバンクから振り込むから」
「当たり前だよ、じゃあね」
間髪入れずにプツリと切れる通話。
途切れた無音がやけに虚しく時を刻む。
「……お金、入れなきゃ」
耳元から目の前へ、スマートフォンを移動させて銀行のサイトにアクセスする。
暗証番号を入れログインし、唯一登録してある送金先を選ぶ。
このメガバンクのネット環境には、私が開発に携わったシステムが搭載されている。
「……がんばったんだけどな」
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
下宿屋 東風荘
浅井 ことは
キャラ文芸
神社に憑く妖狐の冬弥は、神社の敷地内にある民家を改装して下宿屋をやっている。
ある日、神社で祈りの声を聞いていた冬弥は、とある子供に目をつけた。
その少年は、どうやら特異な霊媒体質のようで?
妖怪と人間が織り成す、お稲荷人情物語。
※この作品は、エブリスタにて掲載しており、シリーズ作品として全7作で完結となっております。
※話数という形での掲載ですが、小見出しの章、全体で一作という形にて書いております。
読みづらい等あるかもしれませんが、楽しんでいただければ何よりです。
エブリスタ様にて。
2017年SKYHIGH文庫最終選考。
2018年ほっこり特集掲載作品

私の婚約者の苦手なもの
jun
恋愛
幼馴染みで婚約者のロイは文武両道のクールな美形で人気者。そんな彼にも苦手なものがある…それは虫。彼の周りには私には見えない虫が寄ってくるらしい。助けを求めて今日も彼は走ってくる!
後宮見習いパン職人は、新風を起こす〜九十九(つくも)たちと作る未来のパンを〜
櫛田こころ
キャラ文芸
人間であれば、誰もが憑く『九十九(つくも)』が存在していない街の少女・黄恋花(こう れんか)。いつも哀れな扱いをされている彼女は、九十九がいない代わりに『先読み』という特殊な能力を持っていた。夢を通じて、先の未来の……何故か饅頭に似た『麺麭(パン)』を作っている光景を見る。そして起きたら、見様見真似で作れる特技もあった。
両親を病などで失い、同じように九十九のいない祖母と仲良く麺麭を食べる日々が続いてきたが。隻眼の武官が来訪してきたことで、祖母が人間ではないことを見抜かれた。
『お前は恋花の九十九ではないか?』
見抜かれた九十九が本性を現し、恋花に真実を告げたことで……恋花の生活ががらりと変わることとなった。

猫になったお嬢様
毒島醜女
キャラ文芸
自由を夢見るお嬢様、美也は偉そうな教師や意地悪な妹とメイドたちにイライラする毎日。
ある日、蔵でうっかり壺を壊してしまうと中から封印された妖が現れた。
「あなたの願いをなんでも叶えます」
彼の言葉に、美也は迷うことなく「猫になりたい!」と告げる。
メンタル最強なお嬢様が、最高で最強な猫になる話。

カクテルBAR記憶堂~あなたの嫌な記憶、お引き取りします~
柚木ゆず
キャラ文芸
――心の中から消してしまいたい、理不尽な辛い記憶はありませんか?――
どこかにある『カクテルBAR記憶堂』という名前の、不思議なお店。そこではパワハラやいじめなどの『嫌な記憶』を消してくれるそうです。
今宵もまた心に傷を抱えた人々が、どこからともなく届いた招待状に導かれて記憶堂を訪ねるのでした――
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

おきつねさんとちょっと晩酌
木嶋うめ香
キャラ文芸
私、三浦由衣二十五歳。
付き合っていた筈の会社の先輩が、突然結婚発表をして大ショック。
不本意ながら、そのお祝いの会に出席した帰り、家の近くの神社に立ち寄ったの。
お稲荷様の赤い鳥居を何本も通って、お参りした後に向かった先は小さな狐さんの像。
狛犬さんの様な大きな二体の狐の像の近くに、ひっそりと鎮座している小さな狐の像に愚痴を聞いてもらった私は、うっかりそこで眠ってしまったみたい。
気がついたら知らない場所で二つ折りした座蒲団を枕に眠ってた。
慌てて飛び起きたら、袴姿の男の人がアツアツのうどんの丼を差し出してきた。
え、食べていいの?
おいしい、これ、おいしいよ。
泣きながら食べて、熱燗も頂いて。
満足したらまた眠っちゃった。
神社の管理として、夜にだけここに居るという紺さんに、またいらっしゃいと見送られ帰った私は、家の前に立つ人影に首を傾げた。
料理屋「○」~異世界に飛ばされたけど美味しい物を食べる事に妥協できませんでした~
斬原和菓子
ファンタジー
ここは異世界の中都市にある料理屋。日々の疲れを癒すべく店に来るお客様は様々な問題に悩まされている
酒と食事に癒される人々をさらに幸せにするべく奮闘するマスターの異世界食事情冒険譚
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる