猫の罪深い料理店~迷子さんの拠り所~

碧野葉菜

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出会いの夜

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 見慣れた景色がどこか変わって映る。
 日常に、ほんの少しの変化。そんなもの求めていなかったはずなのに。
 帰路に向かう足取りが軽かったのはなぜだろう。
 いつも時計ばかり気にしている私が、なんとなく空を見上げて星を探してみる。
 都会の煤けた天でも健気に瞬く煌めきは、明日の快晴を伝えてくれるようだ。
 特急が止まる最寄駅から十分もすれば、ビルのように背が高い建物にたどり着く。
 スカイブルーで統一されたタワーマンションは、夜の帳により夕闇色に染まっている。
 自動扉を経て磨き抜かれた大理石のエントランスを歩き、エレベーターに乗ると20と記されたボタンを押す。
 三十階建ての、真ん中より高い数字だ。
 階数に比例して価格が上がる。
 本当は十階までが限度かと思ったけれど、無理をして二十階を選んだ。
 決め手は夜景や都会への憧れではない。人に公に語れるような、ロマンチックな理由でもあればよかったのに。
 エレガントなワインレッドの絨毯、内廊下の角部屋から三つ扉を横切った先で足を止める。
 鍵を回して焦茶色の出入り口を開き、玄関で脱いだパンプスを整えた。
 不思議だ。空腹のはずなのに、なんとなく満たされた気でいる。
 初めて感じるふわりとした高揚感を持ちながら、ダイニングキッチンに入る。
 モノトーン系の色で揃えられた室内は、モダンな結婚式場のようだ。私には縁がないイベントだから、あくまで想像だけれど。
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