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出会いの夜
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眠りから一気に覚めるような、息を吹き返すような。そんな感覚の直後、私は日常に立っていた。
踏みしめるコンクリートの硬さ、通り過ぎる車の音、ポツポツと灯る明かりは住宅と道を照らす電球。
時折行き交う人たちはこちらを振り向くことなく視界をすり抜けてゆく。
路地裏と呼ぶには綺麗な裏道、アパートの間
をすぐ出た歩道に目を見開いて突っ立っていても、誰も興味を向けやしない。
都会の空気は忙しい。故郷の田舎とは時の流れ自体が違っているようだ。
――そうだ、時間。
ふと思い立ち、固めていた身体をようやく動かす。
そして左手首の腕時計を確認した私は「えっ」と小さく声を漏らした。
なぜなら円形に収まった針が、まったく進んでいなかったからだ。
街灯を頼りに何度も見直してみるが、やっぱり変わっていない。
路地裏の光を見つける前、最後に確認した時間は、確か八時二十三分だった。
そして今示された時刻は、八時半ちょうど。
私が現場に向かい、異変に気づくまでの時を考慮すれば、ピッタリ帳尻が合いそうだ。
あの店に入る直前で、時間が止まったとしか考えられなかった。
「……嘘、そんなことって」
思わずお腹をさする。
いつも食べるとすぐに膨らんでしまう下腹部。
それが今は平でスマートな状態を維持していた。
とても先ほど特大パフェを押し込んだとは思えない。
まさか……バカ食いもなかったことになっているとか。
だとしたら――。
「……た、確かに罪深い、かも……」
踏みしめるコンクリートの硬さ、通り過ぎる車の音、ポツポツと灯る明かりは住宅と道を照らす電球。
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――そうだ、時間。
ふと思い立ち、固めていた身体をようやく動かす。
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なぜなら円形に収まった針が、まったく進んでいなかったからだ。
街灯を頼りに何度も見直してみるが、やっぱり変わっていない。
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