猫の罪深い料理店~迷子さんの拠り所~

碧野葉菜

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出会いの夜

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 うっかりここの不思議な空気に流されそうになったけれど、落ち着いて考えてみればおかしなことばかりだ。
 どういう巡り合わせでこんなところに来てしまったのか知らないけれど、これ以上変なことに関わりたくない。
 個人を特定する氏名なんて、教える必要はないだろう。もう二度と会うこともないのだし。

「……あ、あの、もう、いいですよね?」
「まだまだいくらでも、うちは無限おかわりできますよ」
「そうじゃなくって!」

 ガタンッ、と大きな音を立て、椅子が床に倒れる。
 私が衝動的に立ち上がったせいだ。
 なのにちっとも驚いた視線を感じない。
 私一人が楯突いたところで、この場所の雰囲気は壊れるほどやわではないらしい。
 
「……食べ終わったから、帰れるんですよねって聞いてるんです」

 深刻な面持ちで発言すると、目の前に立つ彼はキョトンとしたあと、柔らかく表情を崩した。

「帰りたいんですか?」

 ――帰りたい? 
 そう問われて、ハイと即答できない自分に苛立つ。
 ――どこに帰るの。あなたの居場所は?
 知らない、そんなの。
 帰りたいという気持ちよりも、帰らなきゃいけないという命令じみた文言しか浮かばない。
 
「どうしてそんなに急いでるんですか?」
「どうしてって……いろいろ、やらなきゃいけないことがあるから」
「やらなきゃいけないことって?」
「それは……資格の、勉強とか、スキルアップするために調べものをしたり、仕事の復習とか、予習、とか」

 やたらと落ち着き払ったにこにこ笑顔に、ついムキになって不要なことまで話してしまう。
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