7 / 206
出会いの夜
6
しおりを挟む
十階には満たないであろう、比較的低いクリーム色と煉瓦色をしたアパート。横並びに建った二棟の境目から、滲むように溢れ出す光。
目を刺すような激しいものではなく、提灯の明かりのように優しく辺りを照らしている。
しばし動きを止めたあと、探るように周りを見回す。
帰路に向かう通行人は音楽を聴いたりスマートフォンを触ったり、こちらに気づく様子はない。
私のすぐそばを歩いているにも関わらず、誰一人として足を止めないのだ。
もう一度、確認するために先ほどの場所を見る。
瞬きを繰り返してみても、やはり状況は変わらなかった。
――私、霊感あったっけ?
いやいや、そんなことは今まで感じたこともなければ信じたこともない。
だから、あるはずがない。この光が私にしか見えていないなんて。
知らないふりをして、通過してしまえばいい。
明日も仕事だし、やることは無限にある。
時間は有限だ。こんなところで突っ立っている場合ではない。
そう思うのに、なぜかその光景から目が離せなかった。次第に一歩、二歩と、民家の狭間に足を踏み入れる。
少しだけ、見てみよう。なにがあるのか確かめたら、すぐに引き返せばいい。
漂うような山吹色の空気の中、踵の音が鳴り止む。
アパートのすぐ後ろ、裏道に顔を覗かせた私の前には、信じられない光景が広がっていた。
目を刺すような激しいものではなく、提灯の明かりのように優しく辺りを照らしている。
しばし動きを止めたあと、探るように周りを見回す。
帰路に向かう通行人は音楽を聴いたりスマートフォンを触ったり、こちらに気づく様子はない。
私のすぐそばを歩いているにも関わらず、誰一人として足を止めないのだ。
もう一度、確認するために先ほどの場所を見る。
瞬きを繰り返してみても、やはり状況は変わらなかった。
――私、霊感あったっけ?
いやいや、そんなことは今まで感じたこともなければ信じたこともない。
だから、あるはずがない。この光が私にしか見えていないなんて。
知らないふりをして、通過してしまえばいい。
明日も仕事だし、やることは無限にある。
時間は有限だ。こんなところで突っ立っている場合ではない。
そう思うのに、なぜかその光景から目が離せなかった。次第に一歩、二歩と、民家の狭間に足を踏み入れる。
少しだけ、見てみよう。なにがあるのか確かめたら、すぐに引き返せばいい。
漂うような山吹色の空気の中、踵の音が鳴り止む。
アパートのすぐ後ろ、裏道に顔を覗かせた私の前には、信じられない光景が広がっていた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説

壁にキスはしないでください!~偽りの番は甘い香り、ほんろうされて今日もキスをする~
星名 泉花
キャラ文芸
四ツ井 葉緩は主と姫をくっつけようと試行錯誤するくノ一。
壁に擬態して二人を見守るのが務めであり、趣味だ。
任務を全うしたいのに、クラスメイトの望月 葵斗に振り回され、任務に集中できない日々。
「隠れ身の術」をしてるのにキスされ、ぎゅっとされ、パニック状態!
なぜ葵斗の気配を探れないのか。
ふてくされていると、ついに葵斗が壁を破って「葉緩が番」だと言い出して――。
気配も香りもわからない。思いがけない番の登場に葉緩の運命が変わっていく。
「イケメンな番(手が早い)にふりまわされる優秀なくノ一(仮)の運命の歯車にほんろうされる切なさありのラブストーリー」と「主と姫を応援する忍びの推し活物語」

カクテルBAR記憶堂~あなたの嫌な記憶、お引き取りします~
柚木ゆず
キャラ文芸
――心の中から消してしまいたい、理不尽な辛い記憶はありませんか?――
どこかにある『カクテルBAR記憶堂』という名前の、不思議なお店。そこではパワハラやいじめなどの『嫌な記憶』を消してくれるそうです。
今宵もまた心に傷を抱えた人々が、どこからともなく届いた招待状に導かれて記憶堂を訪ねるのでした――
料理屋「○」~異世界に飛ばされたけど美味しい物を食べる事に妥協できませんでした~
斬原和菓子
ファンタジー
ここは異世界の中都市にある料理屋。日々の疲れを癒すべく店に来るお客様は様々な問題に悩まされている
酒と食事に癒される人々をさらに幸せにするべく奮闘するマスターの異世界食事情冒険譚
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

あやかし奏の宮廷絵巻~笛師の娘と辿る謎解き行脚~
ネコ
キャラ文芸
古き都では、雅(みやび)なる楽の音にあやかしが集まると信じられていた。名家の笛師を父に持つ凛羽(りんう)は、父の急逝を機に宮廷に呼び出され、皇女のもとで笛を吹く役を任される。華やかな后妃たちの居並ぶ中、艶やかな音色を奏でる日々が始まるが、同時に何者かが宮中で不思議な事件を引き起こしていた。夜毎に消える女官、姿を見せる妖しの影……笛の音に導かれるように、凛羽の前には謎の手掛かりが次々と浮かび上がる。音色に宿る不思議な力と、亡き父が研究していた古文書の断片を頼りに、凛羽は皇女や侍衛たちと手を組み、事件の真相を探り始める。あやかしを退けるのではなく、共に音を奏でる道を探す凛羽の思いは、やがて宮廷全体を動かしていく。
下宿屋 東風荘
浅井 ことは
キャラ文芸
神社に憑く妖狐の冬弥は、神社の敷地内にある民家を改装して下宿屋をやっている。
ある日、神社で祈りの声を聞いていた冬弥は、とある子供に目をつけた。
その少年は、どうやら特異な霊媒体質のようで?
妖怪と人間が織り成す、お稲荷人情物語。
※この作品は、エブリスタにて掲載しており、シリーズ作品として全7作で完結となっております。
※話数という形での掲載ですが、小見出しの章、全体で一作という形にて書いております。
読みづらい等あるかもしれませんが、楽しんでいただければ何よりです。
エブリスタ様にて。
2017年SKYHIGH文庫最終選考。
2018年ほっこり特集掲載作品
あやかしとシャチとお嬢様の美味しいご飯日和
二位関りをん
キャラ文芸
昭和17年。ある島の別荘にて病弱な財閥令嬢の千恵子は華族出の母親・ヨシとお手伝いであやかし・濡れ女の沼霧と一緒に暮らしていた。
この別荘及びすぐ近くの海にはあやかし達と、人語を話せるシャチがいる。
「ぜいたくは敵だ」というスローガンはあるが、令嬢らしく時々ぜいたくをしてあやかしやシャチが取ってきた海の幸に山の幸を調理して頂きつつ、薬膳や漢方に詳しい沼霧の手も借りて療養生活を送る千恵子。
戦争を忘れ、ゆっくりとあやかし達と共に美味しいご飯を作って食べる。そんなお話。
※表紙はaipictorsで生成したものを使用しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる