眠りの巫女と野良狐

碧野葉菜

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エピローグ

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 かといって突然、不特定多数が行き交うのはその世界の規律を乱しかねない。
 というわけで残月が許可を出したあやかししか、こちら側には渡れないようにしている。
 人間の世界では相変わらず、あやかしや眠りの件も伏せられたままだ。
 しかし業華の結界がある限り、邪念がある者は鳥居にたどり着くことすらできない。
 そのため、万が一誰かが誤って鳥居をくぐったとしても、悪事を働くような心配はないとされている。
 神の介入によりわかり合える時が遠ざかってしまったが、また機会に恵まれただけでも大きな前進と言えた。

「いつかあやかしの世界、弾丸ツアー三泊四日の旅、なんていうのが普通になる時代が来たりして……」

 ネットや旅行会社を通して予約をし、鳥居の前に列をなす人間たちを想像した夢穂は、少し楽しくなりふっと笑った。

「それが近い将来となるか、遥か彼方の未来となるかは貴様ら次第と言えよう」
「……どういう意味よ?」
「あやかしと人間の子ができれば、それが友好の証となろう」

 数秒ののち、意味を理解した夢穂はこれでもかというほど顔を赤くした。
 影雪は首を傾げて疑問符を浮かべたままだ。
 確かに異種族同士の愛の結晶が誕生すれば、それが仲良くできるという証拠になる。
 残月は魔性の瞳を煌めかせながら、満足げに口角を上げた。
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