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「な、なんなんだこいつ、何言ってんのか一つもわからねえ!」
「いやん、追いかけっこですかぁ、待ってくださいマイプリンス~!」
獄樹にとって、意味不明な言語を並べながら粘着質に絡んでくる美菜は、新手の妖怪にしか見えなかった。
獄樹が形容し難い恐怖と戦う中、廊下に出た業華は、茫然と立ち尽くしている沙子の元に向かった。
その姿に気づいた沙子は、魚が飛び跳ねる勢いで驚くと、おずおずと手にした茶色の袋を渡した。
「あ、ご、業華さん、これ、母が……業華さんにはいつもお世話になってるからって」
袋の中身は、若草色の紙で丁寧に包まれた四角い贈答品だった。
全国的に名の知れた茶葉専門店。
母が、というのは言い訳で、日本茶が好きな業華のために、沙子自身が選んだものだ。
「おやおやこれは上等な品を、ありがたく頂戴いたします」
嬉しそうに微笑む業華を見ると、沙子はとても幸せな気持ちになった。
「よろしければ沙子さんも、縁側でご一緒しませんか?」
「ひゃいっ!? ご、ご一緒しまする!」
思わぬ副産物に、沙子は声を裏返し背筋を伸ばしながら手を挙げた。
そろそろ紅葉が色づき始める頃だ。
あたたかいお茶を飲みながら業華と二人、穏やかな時間を過ごせるかと思うと、沙子は天にも昇る心地だった。
「いやん、追いかけっこですかぁ、待ってくださいマイプリンス~!」
獄樹にとって、意味不明な言語を並べながら粘着質に絡んでくる美菜は、新手の妖怪にしか見えなかった。
獄樹が形容し難い恐怖と戦う中、廊下に出た業華は、茫然と立ち尽くしている沙子の元に向かった。
その姿に気づいた沙子は、魚が飛び跳ねる勢いで驚くと、おずおずと手にした茶色の袋を渡した。
「あ、ご、業華さん、これ、母が……業華さんにはいつもお世話になってるからって」
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思わぬ副産物に、沙子は声を裏返し背筋を伸ばしながら手を挙げた。
そろそろ紅葉が色づき始める頃だ。
あたたかいお茶を飲みながら業華と二人、穏やかな時間を過ごせるかと思うと、沙子は天にも昇る心地だった。
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