眠りの巫女と野良狐

碧野葉菜

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エピローグ

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「やめてよ、そういうこと言うのっ、恥ずかしいから」
「俺は全然恥ずかしくない、事実だからな」
「ちょっとくらい恥ずかしがって!」

 むしろ光栄、と言わんばかりにむふふ、と得意げな含み笑いを見せる影雪に、後ろで手を組みながら快く頷く業華。
 その顔には影雪と同様、勲章とも呼べる紋様が残っていた。

「祝言はいつがよいでしょうかねぇ、夢穂が高校を卒業したらすぐにでも」
「な、何言ってるのよお兄ちゃんてば、気が早す」
「悠長なことをぬかすでない、今すぐ挙げよ」

 やけに楽しげな兄を嗜める夢穂の元に、威厳溢れる低音が訪れた。
 静かに振り向いた居間の畳の上には、片膝を立て座布団に腰を据えた気の早い総大将がいた。
 しかもちゃっかり食事台の前にいる。
 夢穂は思った。これは間違いなく食べて帰る気だと。

「善は急げと言うであろう、あやかし総出で祝ってやるゆえ楽しみにしておれ」
「それはさて置き、勝手に供え物の菓子を食べるのはやめていただけませんかねぇ」

 どうりで口の周りが汚れていると思ったら、すでにつまみ食いを終えていたらしい。
 飴色のたれがついているのを見ると、大観音に備えていたみたらし団子が犠牲になったようだ。
 世界を一つに戻す目標が叶った上、愛息子に相応しい嫁ができた残月は、近頃大層ご機嫌だ。

「気持ちはわからなくもないですが、少しはしゃぎすぎですよ」
「そういう貴様こそ、人間味を取り戻し、ようやく永い眠りが訪れるのかと期待しておるのではないか」

 業華は細い目を一瞬ぱちりと見開いた。
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