眠りの巫女と野良狐

碧野葉菜

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愛のために戦いましょう。

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「そちらの世界は大丈夫なのか?」
「我が束ねておるあやかしたちである、そう簡単にやられまい、獄樹を筆頭に夢穂を救うためと精を出しておるぞ」

 不穏な空気を察してすぐ、残月は民たちにことの経緯いきさつをすべて話した。
 そのおかげで次元の狭間の暴走が始まっても、困惑する者はいなかった。
 一致団結し、自分たちの世界を守ること。
 それが平和に繋がると信じ、必死に戦っている。

「夢穂よ、想像以上の見事な抗いである、我らあやかしと貴様ら人間の底力、今こそ見せてくれようぞ」

 残月の血が滾り、肉が躍る。
 神の一存で切り離された世を、あるがままの姿に還す。長年の夢とも言える歴史的瞬間が、すぐそこまで迫っている。
 痺れる肌から未来の予感を得た残月は、抑えきれない興奮に目を爛々と輝かせた。

 すっかり消え失せたと思われた蠢きが、再び息を吹き返す。
 溢れ出す残月のオーラに、辺りの様子が浮かび上がる。
 二人を取り囲むように、じわじわと押し寄せる手の蔓。

「ここは我が引き受ける、貴様は夢穂の元へ急ぐがよい。間に合わなんだ、では許さぬぞ……我の二の舞になるでない」

 前方に立つ影雪に、残月は激励の言葉を送った。
 その意図を汲んだ影雪はさらに思いを固めると、抜いていた刀を鞘に収めた。

「……ありがとう、父さん」

 残月が目を見開いたのと同時に、影雪が身を翻す。
 俯いていて表情は読み取れなかったが、確かにその声は残月に届いた。

「……あやつめ、百年ぶりに父と呼びよった」

 くすぐるような久しい響きに、思わず喜びの笑みが漏れる。
 残月は刀を持つ手に力を込めると、扇を振るように豪快に切り上げた。
 三日月型の光が疾風のごとく闇を切り裂く。
 それに触れた途端、影雪を追いかけていた影は、紫の星屑となり虚無に還った。

「どこを見ておる! 貴様らの相手はこのあやかし総大将、残月であるぞ! 何人なんびとたりとも我が息子のく手を阻むことは許さぬ!」

 気をよくした残月はみなぎる自信を解放し、全力で影雪の背中を押した。
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