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眠りの巫女の運命は?
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その途中で目に入った業華は、歪な形をした赤い湯飲みを手にしている。
夢穂が小学生の時、授業で作ったものだ。
飲みにくいし恥ずかしいし、もう使わなくていい、と言っているのに、業華は未だに愛用している。
夢穂が透明のコップに冷水を注ぎ、影雪の側に戻ろうとした時だった。
もなかの箱を置いた低い机が、ぶるぶると振動した。
夢穂のスマートフォンのバイブ機能が反応したせいだ。
影雪はまだ電子機器に慣れないらしく、びくっとしてから疑うような細い目を向けている。
テレビを刀で真っ二つにした影雪が「箱の中に囚われている人間を助けようと思い」と述べたのはまだ記憶に新しい。
夢穂はコップをその机に置くと、振動の元を手に取った。
液晶画面には、美菜の名前と着信マークが表示されている。
普段の連絡は、通信アプリのメッセージで十分こと足りる。
夢穂は一抹の不安を胸に、通話ボタンを押し電話口に出た。
「もしもし」と応答するや否や、焦った美菜の声が滝のように流れてくる。
「……え? ほ、本当に? うん、うん、病院は? わかった、すぐ行くから」
業華の湯飲みを持つ手が、わずかに震えた。
縁側から振り返り、夢穂の方を向いていた影雪は、それを見逃さなかった。
あたたかな緑茶が、ぱたぱたと廊下に染みを作った。
夢穂は会話を終え電話を切ると、立ったまま徐に顔だけを二人に向けた。
「……沙子が、交通事故に遭ったって」
平和という名の、薄い氷の上を歩いていた。
視野を広げなければ、足元がどうなっているか気づかない。
砕け散ったその先に、光はあるのだろうか。
夢穂が小学生の時、授業で作ったものだ。
飲みにくいし恥ずかしいし、もう使わなくていい、と言っているのに、業華は未だに愛用している。
夢穂が透明のコップに冷水を注ぎ、影雪の側に戻ろうとした時だった。
もなかの箱を置いた低い机が、ぶるぶると振動した。
夢穂のスマートフォンのバイブ機能が反応したせいだ。
影雪はまだ電子機器に慣れないらしく、びくっとしてから疑うような細い目を向けている。
テレビを刀で真っ二つにした影雪が「箱の中に囚われている人間を助けようと思い」と述べたのはまだ記憶に新しい。
夢穂はコップをその机に置くと、振動の元を手に取った。
液晶画面には、美菜の名前と着信マークが表示されている。
普段の連絡は、通信アプリのメッセージで十分こと足りる。
夢穂は一抹の不安を胸に、通話ボタンを押し電話口に出た。
「もしもし」と応答するや否や、焦った美菜の声が滝のように流れてくる。
「……え? ほ、本当に? うん、うん、病院は? わかった、すぐ行くから」
業華の湯飲みを持つ手が、わずかに震えた。
縁側から振り返り、夢穂の方を向いていた影雪は、それを見逃さなかった。
あたたかな緑茶が、ぱたぱたと廊下に染みを作った。
夢穂は会話を終え電話を切ると、立ったまま徐に顔だけを二人に向けた。
「……沙子が、交通事故に遭ったって」
平和という名の、薄い氷の上を歩いていた。
視野を広げなければ、足元がどうなっているか気づかない。
砕け散ったその先に、光はあるのだろうか。
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