眠りの巫女と野良狐

碧野葉菜

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眠りの巫女の運命は?

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 しばらくして、夢穂と影雪は寝室を出ると、神社と寺院を繋ぐ道を渡った。
 その先にある居間では、今朝も変わらずいい匂いが漂っていた。
 アサリ汁と、炊き込みご飯。
 目にしなくても、献立がわかる。
 襖を開くと、台所には袈裟に割烹着姿をした業華がいた。その右目の通紋は完全な形に戻っている。

「おはようございます、夢穂、影雪、疲れたでしょう。さあ、ゆっくり召し上がってください」

 拍子抜けするほどの、いつもと変わらない光景。
 黒塗りの盆に、夢穂が想像していた食事が載せられ運ばれる。 

「見習いの僧侶からよい山菜をいただいたので、ご飯に混ぜてみました、夢穂の好きなしめじも入れていますよ」
「あ……う、うん」

 流れるような日常に、夢穂は思わず返事をした。
 「座らないのですか」と業華に促され、夢穂と影雪は各自の食卓の前に鎮座する。
 業華は最後に自分の配膳を済ますと、脱いだ割烹着を丁寧にたたみ、床の上に置いた。
 座布団に正座をし、手を合わせる。
 背筋をぴんと伸ばし、正しい箸の持ち方で、音を立てずに食を進める。
 夢穂はとても、手をつける気にならなかった。
 夢穂が食べないので、影雪もあぐらをかいたまま動かない状態が続いた。

 やがて夢穂は、緊張を抑えながら、口を開いた。
 あやかしの世界であったこと、わかったことをすべて打ち明けた。
 業華が取り乱す様子はなかった。
 箸を止めることすらせず、時折頷いた。
 まるで学校の行事の報告を聞くかのように、淡々としていた。
 夢穂が話し終えた後、茶碗に米粒一つ残さなかった業華は、箸を置いた。

「そうでしたか、よくがんばりましたね」

 あっけに取られるほど、ありふれた言葉だった。

「……それ、だけ? だって、私のせいで」
「夢穂」

 続きを言わせないように、業華が声をかぶせた。
 向かい合って座っていた業華は、にこりと笑った。
 その顔を、夢穂は何度も見たことがあった。
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