124 / 175
歪みの原因はそれでしたか。
21
しおりを挟む
「……だが、わけのわからない女たちを連れ込んでいるのは」
「ああ、あれは単なる戯れよ、気にするでない」
「そういう紛らわしいことをするから誤解を生むと思い」
「まだそのようなおぼこいことをぬかしておるとは、純粋すぎるのも罪であるぞ」
反撃をしたつもりの影雪だったが、残月は余裕たっぷりに微笑している。
水も甘いも知り尽くした総大将を動揺させるのは、愛息子でも至難の技のようだ。
しかしそんな何気ないやり取りも、長年すっかり忘れていた。
喧嘩するほど仲がいい、それはあながち間違いではないかもしれない。
「もはや意地を張る必要もあるまい、家に戻れ、我の跡を継ぐのは貴様しかおらぬのだぞ」
「……そこまではまだ、考えていない」
想像していた以上の息子の返事に、残月は満足したように笑った。
「まだ、か。よき、悩み抜いて答えを出すのだな、なに、まだまだ先は長いのだ、焦ることはあるまい、我も早々に隠居生活を送る気はないゆえ」
「影雪が総大将になるって、考えただけで嬉しいや……」
それまで二人のやり取りを大人しく見聞きしていた八重太が、もう我慢できないといった様子で会話に飛び込んだ。
「残月様、おいらでもがんばったら側近になれますかねっ?」
八重太はまさにわくわく、という擬音がぴったり来るように、丸い目を輝かせながら質問した。
「それは貴様次第であろう、獄樹が下級からの成り上がりゆえ、よい相談相手になるやもしれぬな」
「ええっ、で、でも獄樹様って、てっきりおいらみたいな下々は嫌いなんだと」
「あやつはただ素直になれぬだけだ、努力家ゆえ学べることも多かろう、気が向いたら道場に顔を出してみるのだな」
「はっ、はい!」
元気よく手を上げて墓地を走り回る八重太。
数百年先の未来を語り合う三人に、夢穂はちくりと胸が痛んだ。
その頃には当然、夢穂はいない。
どれだけ世界が似ていても、通じ合えても、やはり違う種族なのだと、切なさがよぎった。
「ああ、あれは単なる戯れよ、気にするでない」
「そういう紛らわしいことをするから誤解を生むと思い」
「まだそのようなおぼこいことをぬかしておるとは、純粋すぎるのも罪であるぞ」
反撃をしたつもりの影雪だったが、残月は余裕たっぷりに微笑している。
水も甘いも知り尽くした総大将を動揺させるのは、愛息子でも至難の技のようだ。
しかしそんな何気ないやり取りも、長年すっかり忘れていた。
喧嘩するほど仲がいい、それはあながち間違いではないかもしれない。
「もはや意地を張る必要もあるまい、家に戻れ、我の跡を継ぐのは貴様しかおらぬのだぞ」
「……そこまではまだ、考えていない」
想像していた以上の息子の返事に、残月は満足したように笑った。
「まだ、か。よき、悩み抜いて答えを出すのだな、なに、まだまだ先は長いのだ、焦ることはあるまい、我も早々に隠居生活を送る気はないゆえ」
「影雪が総大将になるって、考えただけで嬉しいや……」
それまで二人のやり取りを大人しく見聞きしていた八重太が、もう我慢できないといった様子で会話に飛び込んだ。
「残月様、おいらでもがんばったら側近になれますかねっ?」
八重太はまさにわくわく、という擬音がぴったり来るように、丸い目を輝かせながら質問した。
「それは貴様次第であろう、獄樹が下級からの成り上がりゆえ、よい相談相手になるやもしれぬな」
「ええっ、で、でも獄樹様って、てっきりおいらみたいな下々は嫌いなんだと」
「あやつはただ素直になれぬだけだ、努力家ゆえ学べることも多かろう、気が向いたら道場に顔を出してみるのだな」
「はっ、はい!」
元気よく手を上げて墓地を走り回る八重太。
数百年先の未来を語り合う三人に、夢穂はちくりと胸が痛んだ。
その頃には当然、夢穂はいない。
どれだけ世界が似ていても、通じ合えても、やはり違う種族なのだと、切なさがよぎった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
【完結】運命の番じゃないけれど
凛蓮月
恋愛
人間の伯爵令嬢ヴィオラと、竜人の侯爵令息ジャサントは幼い頃に怪我を負わせた為に結ばれた婚約者同士。
竜人には運命の番と呼ばれる唯一無二の存在がいる。
二人は運命の番ではないけれど――。
※作者の脳内異世界の、全五話、一万字越の短いお話です。
※シリアス成分は無いです。
※魔女のいる世界観です。
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
約束のあやかし堂 ~夏時雨の誓い~
陰東 愛香音
キャラ文芸
高知県吾川郡仁淀川町。
四万十川に続く清流として有名な仁淀川が流れるこの地には、およそ400年の歴史を持つ“寄相神社”と呼ばれる社がある。
山間にひっそりと佇むこの社は仁淀川町を静かに見守る社だった。
その寄相神社には一匹の猫が長い間棲み付いている。
誰の目にも止まらないその猫の名は――狸奴《りと》。
夜になると、狸奴は人の姿に変わり、寄相神社の境内に立ち神楽鈴を手に舞を踊る。
ある人との約束を守る為に、人々の安寧を願い神楽を舞う。
ある日、その寄相神社に一人の女子大生が訪れた。
彼女はこの地域には何の縁もゆかりもない女子大生――藤岡加奈子。
神社仏閣巡りが趣味で、夏休みを利用して四国八十八か所巡りを済ませて来たばかりの加奈子は一人、地元の人間しか知らないような神社を巡る旅をしようと、ここへとたどり着く。
**************
※この物語には実際の地名など使用していますが、完全なフィクションであり実在の人物や団体などとは関係ありません。
どりーむパークのパンダさんはたいへんおつかれのようです
ちはやれいめい
キャラ文芸
日本のどこかにあるゲームセンター、どりーむパーク。そこで働く量産型きぐるみパンダくんの奮闘の日々&パンダの|きぐるみ《社畜》友達のお話です。
黒帯ちゃんは、幼稚園の先生
未来教育花恋堂
キャラ文芸
保育者はエプロン姿が常識です。でも、もし、エプロンを着けない保育者がいたら・・・。この物語の発想は、背が小さく、卵のようなとてもかわいい女子保育学生に出会い、しかも、黒帯の有段者とのこと。有段者になるには、資質や能力に加えて努力が必要です。現代の幼児教育における諸問題解決に一石を投じられる機会になるように、物語を作成していきます。この物語はフィクションです。登場する人物、団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
金沢ひがし茶屋街 雨天様のお茶屋敷
河野美姫
キャラ文芸
古都・金沢、加賀百万石の城下町のお茶屋街で巡り会う、不思議なご縁。
雨の神様がもてなす甘味処。
祖母を亡くしたばかりの大学生のひかりは、ひとりで金沢にある祖母の家を訪れ、祖母と何度も足を運んだひがし茶屋街で銀髪の青年と出会う。
彼は、このひがし茶屋街に棲む神様で、自身が守る屋敷にやって来た者たちの傷ついた心を癒やしているのだと言う。
心の拠り所を失くしたばかりのひかりは、意図せずにその屋敷で過ごすことになってしまいーー?
神様と双子の狐の神使、そしてひとりの女子大生が紡ぐ、ひと夏の優しい物語。
アルファポリス 2021/12/22~2022/1/21
※こちらの作品はノベマ!様・エブリスタ様でも公開中(完結済)です。
(2019年に書いた作品をブラッシュアップしています)
炎華繚乱 ~偽妃は後宮に咲く~
悠井すみれ
キャラ文芸
昊耀国は、天より賜った《力》を持つ者たちが統べる国。後宮である天遊林では名家から選りすぐった姫たちが競い合い、皇子に選ばれるのを待っている。
強い《遠見》の力を持つ朱華は、とある家の姫の身代わりとして天遊林に入る。そしてめでたく第四皇子・炎俊の妃に選ばれるが、皇子は彼女が偽物だと見抜いていた。しかし炎俊は咎めることなく、自身の秘密を打ち明けてきた。「皇子」を名乗って帝位を狙う「彼」は、実は「女」なのだと。
お互いに秘密を握り合う仮初の「夫婦」は、次第に信頼を深めながら陰謀渦巻く後宮を生き抜いていく。
表紙は同人誌表紙メーカーで作成しました。
第6回キャラ文芸大賞応募作品です。
先生、時間です。
斑鳩入鹿
キャラ文芸
知能指数未知数。戦闘能力未知数。
先生と平凡な僕の数奇な運命を描いた物語ー
都内某所、立て篭もり事件発生。
僕が先生にカップラーメンを作っているとスマホが振動した。速報通知がはいった。
経営コンサルタントを名乗る謎の人物斑鳩先生。
僕はお手伝いとして時給2000円のアルバイト。
その仕事内容とはーー
これは先生と僕の物語。
※ この物語はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる