眠りの巫女と野良狐

碧野葉菜

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歪みの原因はそれでしたか。

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「……だが、わけのわからない女たちを連れ込んでいるのは」
「ああ、あれは単なる戯れよ、気にするでない」
「そういう紛らわしいことをするから誤解を生むと思い」
「まだそのようなおぼこいことをぬかしておるとは、純粋すぎるのも罪であるぞ」

 反撃をしたつもりの影雪だったが、残月は余裕たっぷりに微笑している。
 すいも甘いも知り尽くした総大将を動揺させるのは、愛息子でも至難の技のようだ。
 しかしそんな何気ないやり取りも、長年すっかり忘れていた。
 喧嘩するほど仲がいい、それはあながち間違いではないかもしれない。

「もはや意地を張る必要もあるまい、家に戻れ、我の跡を継ぐのは貴様しかおらぬのだぞ」
「……そこまではまだ、考えていない」

 想像していた以上の息子の返事に、残月は満足したように笑った。

「まだ、か。よき、悩み抜いて答えを出すのだな、なに、まだまだ先は長いのだ、焦ることはあるまい、我も早々に隠居生活を送る気はないゆえ」
「影雪が総大将になるって、考えただけで嬉しいや……」

 それまで二人のやり取りを大人しく見聞きしていた八重太が、もう我慢できないといった様子で会話に飛び込んだ。

「残月様、おいらでもがんばったら側近になれますかねっ?」

 八重太はまさにわくわく、という擬音がぴったり来るように、丸い目を輝かせながら質問した。

「それは貴様次第であろう、獄樹が下級からの成り上がりゆえ、よい相談相手になるやもしれぬな」
「ええっ、で、でも獄樹様って、てっきりおいらみたいな下々は嫌いなんだと」
「あやつはただ素直になれぬだけだ、努力家ゆえ学べることも多かろう、気が向いたら道場に顔を出してみるのだな」
「はっ、はい!」

 元気よく手を上げて墓地を走り回る八重太。
 数百年先の未来を語り合う三人に、夢穂はちくりと胸が痛んだ。
 その頃には当然、夢穂はいない。
 どれだけ世界が似ていても、通じ合えても、やはり違う種族なのだと、切なさがよぎった。
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