眠りの巫女と野良狐

碧野葉菜

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歪みの原因はそれでしたか。

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 八重太は身体中に力を入れて背筋を伸ばすと、めいっぱい頭を下げた。

「ざ、残月様、ごめんなさい、残月様が貴重な力をかけて守ってくれてるのに、おいらなんかが、余計なことをしちまって」

 八重太の渾身の謝罪にも、残月は冷ややかな視線を保ったままだった。

「過ちは自ら気づいてこそ意味を成す。とはいえ、これ以上民に影響が出れば獣の餌にするところであった。早々に気づけてよかったではないか、娘に感謝せよ」

 冷たい眼差しに反し、声音は意外にも穏やかだ。そこには非難する様子は感じられなかった。
 八重太は頭を上げると、涙ぐみながら何度も「ありがとうございます」と礼を伝えた。
 そして幾分か安心したように、少し口籠もりながら続けた。

「……やっぱり、残月様は慈悲深いあやかし様だ、ばあちゃんが言ってた通りだ、おいらたち弱いあやかしのために、妖力の器になる刀も作ってくれたって」

 ぽろぽろとこぼれる八重太の本音に、残月はあきれたようにため息をついた。
 それを聞いた夢穂は驚きはしたものの、やはり影雪の父親だとむしろ腑に落ちた気分だった。

「余計なことを言わぬでよい、そもそもあれは影雪の母の案であった」

 母……その文字が影雪の鼓膜を刺激する。
 ずっと聞きたかったことを、今なら聞ける。そう思った。
 もしも聞いて、望まない答えが返って来たら、本気で自分の父を憎まなくてはならないかもしれない。そんな不安と恐怖で今日こんにちまで目を逸らしてきたことだった。
 影雪は意を決したように、残月に歩み寄った。
 
「……どうして、母さんが病に伏せっていた時、家を空けた? 母さんはずっと待っていた、なのに、お前は一向に帰ってこなかった」

 残月は久方ぶりの息子の目をあくまで冷静に眺めていた。
 ほう、それなりに成長したようだな、と。
 それはまさに親心だった。

「貴様の母は不治の病に侵されておった、ゆえに我は……特効薬となる花を探しに旅に出た」

 残月は苦々しい過去に意識を傾けた。
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