眠りの巫女と野良狐

碧野葉菜

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歪みの原因はそれでしたか。

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 八重太の明かりが灯った瞳に、夢穂と影雪は安堵し、嬉しくなった。

「偉いわ八重太くん、なら私も一緒に謝りに行くわ」
「えっ、べ、別に姉ちゃんは来なくていいって、おいらだけで大丈夫だし、なんかかっこ悪いだろ」

 急に顔を赤くして慌てる八重太が可愛くて、夢穂は弟がいたらこんな感じなのかな、と思った。

「子供はお姉さんに甘えるものでしょ」
「子供ったって、人間の姉ちゃんからしたらたぶんおいらのが……今百歳だし」
「そうなんだ、ひゃく――ええっ!?」
「それでもあやかしにしては子供だからな……俺も一緒に行くぞ」

 影雪までついて行くと言い出し、八重太は困りながらも嬉しそうに頭を掻いた。
 
「よーし、じゃあみんなで残月の御殿に行くわよ」
「その必要はない」

 和やかになった空気を静かに抑制するような、品と重みのある声が訪れた。
 三人が振り向いた先には、今まさに名を出したあやかしがいた。
 相変わらず煌びやかな和服を着こなした残月は、先日会った時にはなかった、三日月のように反り返った太い刀を腰に携えていた。
 残月を中心に空気が染まっていくような、植物さえ平伏すような、そんな威厳と独特な風格が漂っている。

「……やっぱり、気づいてたのね?」

 残月は「当然であろう」と言いたげにほくそ笑んだ。
 まだ未熟な影雪でも神経を研ぎ澄ませば個体の動きを監視できるのに、残月ほどの大妖怪が生命力を送っている重要な土地の異変を知らないはずがなかった。
 しかし、その事実を察していたのは夢穂だけだった。

「我に通紋が現れ神託が降りたのが約五百年前、その間貴様のようなどうは一人や二人ではなかった、今更騒ぎ立てることでもあるまい」

 それを耳にした影雪と八重太は、ようやく状況を理解した。
 残月は墓荒らしが原因で、この世界の眠りに乱れが生じていることを知っていた。その上で黙って見守っていたのだ。
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