眠りの巫女と野良狐

碧野葉菜

文字の大きさ
上 下
121 / 175
歪みの原因はそれでしたか。

18

しおりを挟む
 八重太の明かりが灯った瞳に、夢穂と影雪は安堵し、嬉しくなった。

「偉いわ八重太くん、なら私も一緒に謝りに行くわ」
「えっ、べ、別に姉ちゃんは来なくていいって、おいらだけで大丈夫だし、なんかかっこ悪いだろ」

 急に顔を赤くして慌てる八重太が可愛くて、夢穂は弟がいたらこんな感じなのかな、と思った。

「子供はお姉さんに甘えるものでしょ」
「子供ったって、人間の姉ちゃんからしたらたぶんおいらのが……今百歳だし」
「そうなんだ、ひゃく――ええっ!?」
「それでもあやかしにしては子供だからな……俺も一緒に行くぞ」

 影雪までついて行くと言い出し、八重太は困りながらも嬉しそうに頭を掻いた。
 
「よーし、じゃあみんなで残月の御殿に行くわよ」
「その必要はない」

 和やかになった空気を静かに抑制するような、品と重みのある声が訪れた。
 三人が振り向いた先には、今まさに名を出したあやかしがいた。
 相変わらず煌びやかな和服を着こなした残月は、先日会った時にはなかった、三日月のように反り返った太い刀を腰に携えていた。
 残月を中心に空気が染まっていくような、植物さえ平伏すような、そんな威厳と独特な風格が漂っている。

「……やっぱり、気づいてたのね?」

 残月は「当然であろう」と言いたげにほくそ笑んだ。
 まだ未熟な影雪でも神経を研ぎ澄ませば個体の動きを監視できるのに、残月ほどの大妖怪が生命力を送っている重要な土地の異変を知らないはずがなかった。
 しかし、その事実を察していたのは夢穂だけだった。

「我に通紋が現れ神託が降りたのが約五百年前、その間貴様のようなどうは一人や二人ではなかった、今更騒ぎ立てることでもあるまい」

 それを耳にした影雪と八重太は、ようやく状況を理解した。
 残月は墓荒らしが原因で、この世界の眠りに乱れが生じていることを知っていた。その上で黙って見守っていたのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】Amnesia(アムネシア)~カフェ「時遊館」に現れた美しい青年は記憶を失っていた~

紫紺
ミステリー
郊外の人気カフェ、『時游館』のマスター航留は、ある日美しい青年と出会う。彼は自分が誰かも全て忘れてしまう記憶喪失を患っていた。 行きがかり上、面倒を見ることになったのが……。 ※「Amnesia」は医学用語で、一般的には「記憶喪失」のことを指します。

鬼の御宿の嫁入り狐

梅野小吹
キャラ文芸
▼2025.2月 書籍 第2巻発売中! 【第6回キャラ文芸大賞/あやかし賞 受賞作】  鬼の一族が棲まう隠れ里には、三つの尾を持つ妖狐の少女が暮らしている。  彼女──縁(より)は、腹部に火傷を負った状態で倒れているところを旅籠屋の次男・琥珀(こはく)によって助けられ、彼が縁を「自分の嫁にする」と宣言したことがきっかけで、羅刹と呼ばれる鬼の一家と共に暮らすようになった。  優しい一家に愛されてすくすくと大きくなった彼女は、天真爛漫な愛らしい乙女へと成長したものの、年頃になるにつれて共に育った琥珀や家族との種族差に疎外感を覚えるようになっていく。 「私だけ、どうして、鬼じゃないんだろう……」  劣等感を抱き、自分が鬼の家族にとって本当に必要な存在なのかと不安を覚える縁。  そんな憂いを抱える中、彼女の元に現れたのは、縁を〝花嫁〟と呼ぶ美しい妖狐の青年で……?  育ててくれた鬼の家族。  自分と同じ妖狐の一族。  腹部に残る火傷痕。  人々が語る『狐の嫁入り』──。  空の隙間から雨が降る時、小さな体に傷を宿して、鬼に嫁入りした少女の話。

皇太后(おかあ)様におまかせ!〜皇帝陛下の純愛探し〜

菰野るり
キャラ文芸
皇帝陛下はお年頃。 まわりは縁談を持ってくるが、どんな美人にもなびかない。 なんでも、3年前に一度だけ出逢った忘れられない女性がいるのだとか。手がかりはなし。そんな中、皇太后は自ら街に出て息子の嫁探しをすることに! この物語の皇太后の名は雲泪(ユンレイ)、皇帝の名は堯舜(ヤオシュン)です。つまり【後宮物語〜身代わり宮女は皇帝陛下に溺愛されます⁉︎〜】の続編です。しかし、こちらから読んでも楽しめます‼︎どちらから読んでも違う感覚で楽しめる⁉︎こちらはポジティブなラブコメです。

蛇に祈りを捧げたら。

碧野葉菜
キャラ文芸
願いを一つ叶える代わりに人間の寿命をいただきながら生きている神と呼ばれる存在たち。その一人の蛇神、蛇珀(じゃはく)は大の人間嫌いで毎度必要以上に寿命を取り立てていた。今日も標的を決め人間界に降り立つ蛇珀だったが、今回の相手はいつもと少し違っていて…? 神と人との理に抗いながら求め合う二人の行く末は? 人間嫌いであった蛇神が一人の少女に恋をし、上流神(じょうりゅうしん)となるまでの物語。

おにぎり屋さんの裏稼業 〜お祓い請け賜わります〜

瀬崎由美
キャラ文芸
高校2年生の八神美琴は、幼い頃に両親を亡くしてからは祖母の真知子と、親戚のツバキと一緒に暮らしている。 大学通りにある屋敷の片隅で営んでいるオニギリ屋さん『おにひめ』は、気まぐれの営業ながらも学生達に人気のお店だ。でも、真知子の本業は人ならざるものを対処するお祓い屋。霊やあやかしにまつわる相談に訪れて来る人が後を絶たない。 そんなある日、祓いの仕事から戻って来た真知子が家の中で倒れてしまう。加齢による力の限界を感じた祖母から、美琴は祓いの力の継承を受ける。と、美琴はこれまで視えなかったモノが視えるようになり……。 第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。

鬼の閻火とおんぼろ喫茶

碧野葉菜
キャラ文芸
ほっこりじんわり大賞にて奨励賞を受賞しました!ありがとうございます♪ 高校を卒業してすぐ、急逝した祖母の喫茶店を継いだ萌香(もか)。 気合いだけは十分だったが現実はそう甘くない。 奮闘すれど客足は遠のくばかりで毎日が空回り。 そんなある日突然現れた閻魔大王の閻火(えんび)に結婚を迫られる。 嘘をつけない鬼のさだめを利用し、萌香はある提案を持ちかける。 「おいしいと言わせることができたらこの話はなかったことに」 激辛採点の閻火に揉まれ、幼なじみの藍之介(あいのすけ)に癒され、周囲を巻き込みつつおばあちゃんが言い残した「大切なこと」を探す。 果たして萌香は約束の期限までに閻火に「おいしい」と言わせ喫茶店を守ることができるのだろうか? ヒューマンドラマ要素強めのほっこりファンタジー風味なラブコメグルメ奮闘記。

狼神様と生贄の唄巫女 虐げられた盲目の少女は、獣の神に愛される

茶柱まちこ
キャラ文芸
 雪深い農村で育った少女・すずは、赤子のころにかけられた呪いによって盲目となり、姉や村人たちに虐いたげられる日々を送っていた。  ある日、すずは村人たちに騙されて生贄にされ、雪山の神社に閉じ込められてしまう。失意の中、絶命寸前の彼女を救ったのは、狼と人間を掛け合わせたような姿の男──村人たちが崇める守護神・大神だった。  呪いを解く代わりに大神のもとで働くことになったすずは、大神やあやかしたちの優しさに触れ、幸せを知っていく──。  神様と盲目少女が紡ぐ、和風恋愛幻想譚。 (旧題:『大神様のお気に入り』)

鬼の国の贄姫は死者を弔い紅をさす

フドワーリ 野土香
キャラ文芸
額に千日紅の形をした赤い痣を持って生まれた緋花。それは鬼の帝からの愛を誓う印だった……? 常世国〈とこよのくに〉。この国には人より遥かに長く生きる鬼が住むと言われていた。 緋花の父は生まれる前に死に、病弱だった母も緋花を産み落とすとその後すぐ亡くなってしまう。村には15年に一度鬼への生贄を捧げる決まりがあり、村人たちは天涯孤独な緋花を生贄にすると決定する。ただし、生贄として差し出すのは15歳と定められていたため、それまでは村で手厚く緋花を育てていた。 緋花は生贄として捧げられることを理解しつつ、村で亡くなった人たちの身体を綺麗にしたり死化粧を施したりしていた。 生贄として捧げられる日、緋花は額の痣を化粧で隠し鬼の国へ向かう。しかし、鬼は人を喰らわず、生贄とは鬼の帝が住む後宮で働かされることを意味していた。 生贄として後宮入りした緋花は、幸か不幸か正妃である黒蝶の化粧係兼身の回りの雑務を言い渡される。だがあることがきっかけで緋花は高価な紅を盗んだ罪を着せられ、帝の紅玉に死罪を求められる。そして、額にある千日紅の痣が姿を現してーー。 生贄として捧げられた少女が、愛と友情に巡り合う物語。そして、鬼と人との間に隠された秘密を紐解いていく。

処理中です...