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歪みの原因はそれでしたか。
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「……なんで、姉ちゃんも泣いてんだ?」
八重太に言われたことで、夢穂は初めて自分が泣いていることに気がついた。
「……どうしてだろ? もらい泣き、かな? 変だね」
夢穂は目線を合わせるように八重太の側にしゃがみ、立っている彼を少しだけ見上げた。
「こっちの世界ではどうか知らないけど、私の世界ではね、死んじゃった後に行く場所があるのよ、いいことをしたら天国、悪いことをしたら地獄っていうところに行くの」
「……テンゴク、ジゴク?」
慣れない様子で口にしながら、八重太は夢穂をじっと見ていた。
「八重太くんのおばあちゃんは優しかったわよね? なら天国にいるはずだから、八重太くんもいつかその時が来たら、またおばあちゃんに会えるわ」
「テンゴクって、どんなとこ?」
「私も行ったことないからわからないけど、きっと明るくて優しい場所なんじゃないかな?」
「明るくて、優しい……ばあちゃんみたいだ」
夢穂は優しく微笑みかけると、スカートのポケットから取り出したものを八重太に見せた。
それを目にした八重太は「あっ」と小さく漏らし、申し訳なさそうに肩を縮めた。
夢穂が手にしていたのは、八重太が払い退けた匂い袋だった。
あの後、夢穂はその中身を掻き集め、もう一度形になるよう直していた。
「悪いって思わなくていいわ、ただ、あなたにも受け取ってほしいの」
八重太は夢穂の瞳に映る自身の姿を認めると、ゆっくりと差し出された匂い袋に視線を落とした。
そしてようやく、躊躇うように傷だらけの手を伸ばした。
匂いを頭で判断するより早く、祖母はそこにいた。
あたかも現実に存在するかのように、鮮明な色を持ち、あたたかく微笑んでいた。
暮らした家や、着ていた布、祖母の好きだった食べ物に、年老いた少しほこりっぽい匂い。
一つ一つがシャボン玉のように浮かんでは弾け、浮かんでは弾け、その度八重太の感情を刺激する。
八重太に言われたことで、夢穂は初めて自分が泣いていることに気がついた。
「……どうしてだろ? もらい泣き、かな? 変だね」
夢穂は目線を合わせるように八重太の側にしゃがみ、立っている彼を少しだけ見上げた。
「こっちの世界ではどうか知らないけど、私の世界ではね、死んじゃった後に行く場所があるのよ、いいことをしたら天国、悪いことをしたら地獄っていうところに行くの」
「……テンゴク、ジゴク?」
慣れない様子で口にしながら、八重太は夢穂をじっと見ていた。
「八重太くんのおばあちゃんは優しかったわよね? なら天国にいるはずだから、八重太くんもいつかその時が来たら、またおばあちゃんに会えるわ」
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「明るくて、優しい……ばあちゃんみたいだ」
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それを目にした八重太は「あっ」と小さく漏らし、申し訳なさそうに肩を縮めた。
夢穂が手にしていたのは、八重太が払い退けた匂い袋だった。
あの後、夢穂はその中身を掻き集め、もう一度形になるよう直していた。
「悪いって思わなくていいわ、ただ、あなたにも受け取ってほしいの」
八重太は夢穂の瞳に映る自身の姿を認めると、ゆっくりと差し出された匂い袋に視線を落とした。
そしてようやく、躊躇うように傷だらけの手を伸ばした。
匂いを頭で判断するより早く、祖母はそこにいた。
あたかも現実に存在するかのように、鮮明な色を持ち、あたたかく微笑んでいた。
暮らした家や、着ていた布、祖母の好きだった食べ物に、年老いた少しほこりっぽい匂い。
一つ一つがシャボン玉のように浮かんでは弾け、浮かんでは弾け、その度八重太の感情を刺激する。
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