眠りの巫女と野良狐

碧野葉菜

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歪みの原因はそれでしたか。

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 影雪の膝は硬くて安定感があり、意外としっくりきた。生きた低反発枕のようだった。
 夢穂がとんちんかんなことを考えていると、影雪が髪をくように撫でてきたので前言撤回した。枕にはこんなにドキドキしない。
 
「何か変化があったらすぐに教えてね」
「ああ、わかった」

 ぽんと頭に置かれた影雪のが手のひらがあたたかい。
 静かに舞い散る白い雪が、甘ったるいわたあめに見えた。
 まるで影雪に丸ごと包まれているようだ。
 夢穂の思考は心地よいまどろみとともに、夢の中へ落ちていった。

 影雪は自身の膝で気持ちよさそうに寝息を立てる夢穂を、ずっと見ていたかった。
 なぜここまで離れ難いのかと、影雪は初めての気持ちに戸惑いながらも、少しずつその正体を掴みつつあった。
 どちらの世界も行き交うことを許された証の紋様を、そっと指でなぞる。
 選ばれた理由などなんでもいい。
 飛び込んだ先で夢穂と出会えたことに、ただ感謝したかった。
 夢穂のおかげで自分の視野が開けたような、すべてうまく回り始めたような、そんな気がしていた。

「不思議だな、夢穂は……」

 滑らかな白い頬を手の甲でなぞれば、夢穂はくすぐったそうにもぞもぞ動き「クリカキ」と寝言を漏らした。
 夢穂に夢中で霊園の監視を忘れそうになった影雪は、いかんいかん、と自分を諌め、神経を集中させた。

 それから二時間ほど経過した頃だった。
 夜行性の獣たちが活発な動きを見せる深夜二時、影雪の張り巡らせていた感覚に、触れるものがあった。
 腕を組み岩壁を背に黙していた影雪は、ぴくりと耳を動かすと、夢穂の肩を叩いた。
 やはり眠りが浅かったのか、夢穂は思ったよりもあっさりと目を覚ました。
 ぼんやりとにじむ視界を晴らそうと、夢穂の手が瞼の上で左右に動く。

「眠っているところすまんが、八重太が動いた」

 夢穂は目を見開き、一気に飛び起きた。
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