眠りの巫女と野良狐

碧野葉菜

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歪みの原因はそれでしたか。

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 夢穂は植物と同じく、動物も好きだ。
 正直言えば飼いたいと思うこともあるが、なんせ家が寺院で神社なので他の人々も出入りする環境だ。
 そのため苦手な人やアレルギーを持った人がいたら困るということで、動物は飼えない。
 まさかここに来てこんなに希少な動物に出会えるなど、夢にも思っていなかった。

「あら? あなた……不思議な模様があるのね?」

 銀狐の顔をよく見てみると、その左目尻の下に涙のような黒い点々が三つ続いていた。

「どこかで見たことがあるような気がするけど……ま、いっか。あなたも一緒に温泉に入る?」
「こーん」
「あら、なんだか人の言葉がわかるみたいね」

 ふふ、と微笑むと、夢穂は銀狐を胸に抱え、なるべくそっとお湯に沈ませてやった。

「ここは本当に幻想的なものが多くて、まるで夢の中にいるような気分だわ」

 銀狐は夢穂の隣に寄り添うようにして、大人しく温泉に浸かっている。
 緑の木々に囲まれたあたたかな泉の上は丸い形に開けていて、高い空がよく見えた。
 じきに夜の帷が訪れるだろう。
 夕と夜の間にだけ現れる紫がかった青い
 夢穂は頭上に広がる景色を眺めながら、今日一日あったことを思い出していた。
 昨日の今頃には、知らなかったことをたくさん経験した。
 あやかしたちのことも、この世界の文化にも、少し触れることができた。
 何より、影雪のことをより深く知ることができた。
 たった数日前、突然布団で出会い、あの時はなんて迷惑なあやかしなんだろうと思ったが、気づけばすっかり馴染んでしまい、二人で過ごすことに違和感もなくなっていた。

「不思議よね、あいつ……」

 空を見上げたまま小さく漏らす夢穂を、銀狐は見つめていた。
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