眠りの巫女と野良狐

碧野葉菜

文字の大きさ
上 下
96 / 175
輪が広がるのは嬉しいことです。

7

しおりを挟む
「奇うさぎ、ありがとう」
「あたちが今までで一番美味しかった人参の匂いでしたの、こちらこそどうもありがとう」

 三つの赤い目を機嫌よさそうに細める奇うさぎ。
 ふと、夢穂が辺りを見渡せば、あやかしたちは肩を組んだり並べたり、盛大に笑い合ったり、譲り合ったりしている。
 容姿や能力はばらばらでも、そこには目に見えない確かな繋がりがある。
 そんな彼らを見た夢穂は、自分の内に震えるような熱が生まれたのを感じた。

 世界は一つ。
 なぜ……眠りの神はこの世を二つに分断してしまったのだろう?
 本当にそんな必要はあったのだろうか?
 そんなことを考えている自分に気づいた夢穂は、なぜか急激に怖くなり、頭を横に振った。
 神の正義を疑うなんて許されない、私は眠りの巫女なんだから――。
 夢穂がそう言い聞かせながら、思考を振り払った時だった。

「お前ら、何してやがる」

 低くかすれたような声に、その場にいた全員がぴくりと反応を示し、動きを止める。
 一同の視線を一身に集めたのは、異様な圧を醸し出しながら立っている獄樹だった。
 彼は憤怒を込めた鋭い眼差しで、夢穂の方を見ていた。
 匂い袋を手にしたあやかしたちは、みんな顔を見合わせ、身を引いてゆく。
 先ほどまでの明るさが嘘のように、辺りは重苦しい空気に覆われた。

「やめろ」

 夢穂に詰め寄ろうとする獄樹の肩を、影雪が掴んだ。
 その影雪の言動がよほど頭にきたのだろう、獄樹はひどい剣幕でその腕を振り切った。

「お前はこの女の護衛か? 奴隷か? 女のケツを追いかける前にやるべきことかあるんじゃねえのか!」

 静まり返った町に、獄樹の怒声だけが響き渡る。
 気を引きしめた夢穂が獄樹に物申そうと一歩進むが、それより先に口を切ったのは影雪だった。

「この件については好きにしていいと、残月から許可を受けている」
「正気か影雪? お前はぼやっとしてるからいいように使われてるだけじゃねえのかよ!」
「違う」

 影雪は軽く首を横に振ると、真摯な瞳で獄樹を見据えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

殿下、側妃とお幸せに! 正妃をやめたら溺愛されました

まるねこ
恋愛
旧題:お飾り妃になってしまいました 第15回アルファポリス恋愛大賞で奨励賞を頂きました⭐︎読者の皆様お読み頂きありがとうございます! 結婚式1月前に突然告白される。相手は男爵令嬢ですか、婚約破棄ですね。分かりました。えっ?違うの?嫌です。お飾り妃なんてなりたくありません。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

6年後に戦地から帰ってきた夫が連れてきたのは妻という女だった

白雲八鈴
恋愛
 私はウォルス侯爵家に15歳の時に嫁ぎ婚姻後、直ぐに夫は魔王討伐隊に出兵しました。6年後、戦地から夫が帰って来ました、妻という女を連れて。  もういいですか。私はただ好きな物を作って生きていいですか。この国になんて出ていってやる。  ただ、皆に喜ばれる物を作って生きたいと願う女性がその才能に目を付けられ周りに翻弄されていく。彼女は自由に物を作れる道を歩むことが出来るのでしょうか。 番外編 謎の少女強襲編  彼女が作り出した物は意外な形で人々を苦しめていた事を知り、彼女は再び帝国の地を踏むこととなる。  私が成した事への清算に行きましょう。 炎国への旅路編  望んでいた炎国への旅行に行く事が出来ない日々を送っていたが、色々な人々の手を借りながら炎国のにたどり着くも、そこにも帝国の影が・・・。  え?なんで私に誰も教えてくれなかったの?そこ大事ー! *本編は完結済みです。 *誤字脱字は程々にあります。 *なろう様にも投稿させていただいております。

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

【完結】王太子妃の初恋

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
カテリーナは王太子妃。しかし、政略のための結婚でアレクサンドル王太子からは嫌われている。 王太子が側妃を娶ったため、カテリーナはお役御免とばかりに王宮の外れにある森の中の宮殿に追いやられてしまう。 しかし、カテリーナはちょうど良かったと思っていた。婚約者時代からの激務で目が悪くなっていて、これ以上は公務も社交も難しいと考えていたからだ。 そんなカテリーナが湖畔で一人の男に出会い、恋をするまでとその後。 ★ざまぁはありません。 全話予約投稿済。 携帯投稿のため誤字脱字多くて申し訳ありません。 報告ありがとうございます。

処理中です...