眠りの巫女と野良狐

碧野葉菜

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やってみなくちゃ始まりません。

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「私ばかり食べてるじゃない、影雪も食べてよ、代わるわ」
「いや、だがこれは」

 夢穂が強引に氷天丸の持ち手を引っ張ると、影雪から離れた途端地面にめり込んだ。
 ものすごい重力に身体ごと持って行かれそうになった夢穂だったが、手が滑ったことで怪我は免れた。
 掴んだままだと手が下敷きになっていたかもしれない。
 そう考えた夢穂は黒曜石のように美しい刃を前に、真っ青になっていた。

「どういうわけか俺以外が持つと、とんでもなく重く感じるらしい」
「そういうことはもうちょっと早く言ってほしかったわ」

 これほど重いものを軽々使いこなせるなら、人一人を抱えて走ったり飛んだりしても、余裕なはずだ。
 影雪にとって夢穂は、羽のように軽い。

 気を取り直して食事に戻ると、影雪も一緒にクリカキを頬張り出した。
 しばし、穏やかな時間が流れる。
 ふと、夢穂の脳裏に、先ほどの影雪の台詞が浮かんだ。
 
「あの……さっきの」

 夢穂が遠慮がちに切り出すと、対面する形で座っている影雪が反応を示した。
 
「お、俺の大事な女って、どういう、意味……?」

 視線を泳がせながら聞く夢穂に、影雪は「そのままの意味だ」とこともなげに答える。

「俺にとって、夢穂はとても必要だからな」
「影雪……」
「夢穂がいないと、俺はあちらの世界でまともに飯も食えないからな」

 夢穂は手に残っていたクリカキを、ぐしゃりと握りつぶした。

「そうよね、そういう奴よ、あなたは。どうせ私はただの餌付け役だし」
「どうして怒っている?」
「別に怒ってないけどっ」

 期待してしまった自分に腹が立った夢穂は、心持ち反発すると肩を落とした。
 そしてすぐに、一体何に対する期待だというのかと、ハッとした。
 影雪は異世界の異種族だ、それなのに――?
 いや、ないない、と、夢穂は思考をかき消すように頭を横に振った。
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