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やってみなくちゃ始まりません。
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薬草を抱えた二人は、何やら楽しげに会話を弾ませながら、先ほどの渓谷へと歩いていった。
「だいぶ回復したし、もう少し休んだら私も」
――みゅううん
行こう、という言葉の前に、小動物の鳴き声のような音が聞こえた。
出どころは、夢穂のお腹だ。
「なんだ、腹に子うさぎでも飼っているのか?」
「飼ってるわけないでしょ……お腹が空いただけ」
正直すぎる身体に、夢穂はあきれてため息をついた。
すると徐に立ち上がった影雪が、辺りの様子を窺うように視線を動かし始めたので、夢穂はまさか、と次の行動を予測した。
「影雪、何する気?」
「夢穂が飢えているから、猪でも狩ってこようかと思い」
やっぱり……と、夢穂は思った。
気持ちは嬉しいが、狩り立てそのままの獣にかぶりつくのは、どうも気が引ける。
「私は遠慮するわ、そう言えば奇うさぎが野菜を作ってたわよね? 後で行ってみようかな」
野菜なら調理せずに生でも食べられるものがある、と思い当たった夢穂は、奇うさぎの八百屋に行こうかと考えた。
「なんだ、野菜っぽいやつならいいのか」
返事を待たずして、影雪は夢穂がもたれている木に向き直る。
そしてその立派な幹に、そっと優しく手のひらを添えた。
影雪は顔を上げ、遠くを見つめながら口を開く。
「俺の大事な女が腹を空かせている、木の実を落としてくれないか、頼む」
穏やかに語りかける影雪を、夢穂は目を丸くして見上げていた。
しばし、沈黙が訪れる。
「え、まさか影雪、植物と会話が」
「できん」
「だよねぇ? ならなんでそんなこと――イタッ!」
突然頭に何かが落ちてきて、夢穂は痛みに声を上げた。
ぶつかった箇所を手で撫でながら前を見ると、足元の地面に、拳大のトゲトゲした丸い形のものが転がっていた。
頭に疑問符を浮かべながら、それを確かめようと手を伸ばす夢穂の頭上から、今度は一気に落下物が降ってきた。
「だいぶ回復したし、もう少し休んだら私も」
――みゅううん
行こう、という言葉の前に、小動物の鳴き声のような音が聞こえた。
出どころは、夢穂のお腹だ。
「なんだ、腹に子うさぎでも飼っているのか?」
「飼ってるわけないでしょ……お腹が空いただけ」
正直すぎる身体に、夢穂はあきれてため息をついた。
すると徐に立ち上がった影雪が、辺りの様子を窺うように視線を動かし始めたので、夢穂はまさか、と次の行動を予測した。
「影雪、何する気?」
「夢穂が飢えているから、猪でも狩ってこようかと思い」
やっぱり……と、夢穂は思った。
気持ちは嬉しいが、狩り立てそのままの獣にかぶりつくのは、どうも気が引ける。
「私は遠慮するわ、そう言えば奇うさぎが野菜を作ってたわよね? 後で行ってみようかな」
野菜なら調理せずに生でも食べられるものがある、と思い当たった夢穂は、奇うさぎの八百屋に行こうかと考えた。
「なんだ、野菜っぽいやつならいいのか」
返事を待たずして、影雪は夢穂がもたれている木に向き直る。
そしてその立派な幹に、そっと優しく手のひらを添えた。
影雪は顔を上げ、遠くを見つめながら口を開く。
「俺の大事な女が腹を空かせている、木の実を落としてくれないか、頼む」
穏やかに語りかける影雪を、夢穂は目を丸くして見上げていた。
しばし、沈黙が訪れる。
「え、まさか影雪、植物と会話が」
「できん」
「だよねぇ? ならなんでそんなこと――イタッ!」
突然頭に何かが落ちてきて、夢穂は痛みに声を上げた。
ぶつかった箇所を手で撫でながら前を見ると、足元の地面に、拳大のトゲトゲした丸い形のものが転がっていた。
頭に疑問符を浮かべながら、それを確かめようと手を伸ばす夢穂の頭上から、今度は一気に落下物が降ってきた。
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