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やってみなくちゃ始まりません。
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何やらパタパタという音とともに、風が吹いてくるのに気づいた夢穂は目を開けた。
そこには人の顔ほどの大きさをした葉を手にし、夢穂を扇いでいる影雪がいた。
その姿を微笑ましく感じた夢穂は、思わず笑みを漏らした。
「……ありがと、ちょっと、暑さにやられちゃったみたい」
「暑い場所にいるとそんなことになるのか? 人間は繊細で大変だな」
影雪は何事もなかったかのように、相変わらず涼しい顔をしている。汗すらかいていない。
「でも、あやかしにだって病気はあるんでしょ?」
「あるにはあるが、ごく稀だ、ほとんどのあやかしが寿命をまっとうする」
「そうなんだ……」
体調が改善してくると、夢穂はあることを思い出した。
「そうだ……薬草、取りに戻らなきゃね」
夢穂に言われ、影雪もようやくそのことを思い出したようだった。
「夢穂のことで頭がいっぱいで、薬草のことをすっかり忘れていた、すまん」
小さく謝る影雪に、夢穂の方が申し訳なくなってしまう。
しかし、自分のことで頭がいっぱいなど、話の流れで言われたとしても、夢穂は妙に意識してしまった。
「謝らないでよ、どのみち私を抱えたままじゃ、手が塞がって持ってこられなかっただろうし」
夢穂がちょうど言い終わった時、森の奥から一つ目虎と筋肉狼が走ってくるのが見えた。
その腕には、山盛りの薬草が抱えられている。
どうやら夢穂と影雪の後を追って、運んで来てくれたらしい。
「うわあ、持ってきてくれたの? ありがとう、助かったわ」
喜ぶ夢穂の反応に、二人は顔を見合わせると頬を赤くして照れていた。
それからガフガフと獣らしい声で、影雪に話しかけた。
影雪の通訳としては、彼らはまだ夢穂のために何かしたい、ということらしい。
それならばと、夢穂は続きのやり方を教えた。
肉球のある虎と狼の手では薬草は洗いにくいかな、とも思ったが、本人たちがやる気なので、任せることにした。
そこには人の顔ほどの大きさをした葉を手にし、夢穂を扇いでいる影雪がいた。
その姿を微笑ましく感じた夢穂は、思わず笑みを漏らした。
「……ありがと、ちょっと、暑さにやられちゃったみたい」
「暑い場所にいるとそんなことになるのか? 人間は繊細で大変だな」
影雪は何事もなかったかのように、相変わらず涼しい顔をしている。汗すらかいていない。
「でも、あやかしにだって病気はあるんでしょ?」
「あるにはあるが、ごく稀だ、ほとんどのあやかしが寿命をまっとうする」
「そうなんだ……」
体調が改善してくると、夢穂はあることを思い出した。
「そうだ……薬草、取りに戻らなきゃね」
夢穂に言われ、影雪もようやくそのことを思い出したようだった。
「夢穂のことで頭がいっぱいで、薬草のことをすっかり忘れていた、すまん」
小さく謝る影雪に、夢穂の方が申し訳なくなってしまう。
しかし、自分のことで頭がいっぱいなど、話の流れで言われたとしても、夢穂は妙に意識してしまった。
「謝らないでよ、どのみち私を抱えたままじゃ、手が塞がって持ってこられなかっただろうし」
夢穂がちょうど言い終わった時、森の奥から一つ目虎と筋肉狼が走ってくるのが見えた。
その腕には、山盛りの薬草が抱えられている。
どうやら夢穂と影雪の後を追って、運んで来てくれたらしい。
「うわあ、持ってきてくれたの? ありがとう、助かったわ」
喜ぶ夢穂の反応に、二人は顔を見合わせると頬を赤くして照れていた。
それからガフガフと獣らしい声で、影雪に話しかけた。
影雪の通訳としては、彼らはまだ夢穂のために何かしたい、ということらしい。
それならばと、夢穂は続きのやり方を教えた。
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