眠りの巫女と野良狐

碧野葉菜

文字の大きさ
上 下
85 / 175
やってみなくちゃ始まりません。

18

しおりを挟む
 何やらパタパタという音とともに、風が吹いてくるのに気づいた夢穂は目を開けた。
 そこには人の顔ほどの大きさをした葉を手にし、夢穂を扇いでいる影雪がいた。
 その姿を微笑ましく感じた夢穂は、思わず笑みを漏らした。

「……ありがと、ちょっと、暑さにやられちゃったみたい」
「暑い場所にいるとそんなことになるのか? 人間は繊細で大変だな」

 影雪は何事もなかったかのように、相変わらず涼しい顔をしている。汗すらかいていない。

「でも、あやかしにだって病気はあるんでしょ?」
「あるにはあるが、ごく稀だ、ほとんどのあやかしが寿命をまっとうする」
「そうなんだ……」

 体調が改善してくると、夢穂はあることを思い出した。

「そうだ……薬草、取りに戻らなきゃね」

 夢穂に言われ、影雪もようやくそのことを思い出したようだった。

「夢穂のことで頭がいっぱいで、薬草のことをすっかり忘れていた、すまん」

 小さく謝る影雪に、夢穂の方が申し訳なくなってしまう。
 しかし、自分のことで頭がいっぱいなど、話の流れで言われたとしても、夢穂は妙に意識してしまった。

「謝らないでよ、どのみち私を抱えたままじゃ、手が塞がって持ってこられなかっただろうし」

 夢穂がちょうど言い終わった時、森の奥から一つ目虎と筋肉狼が走ってくるのが見えた。
 その腕には、山盛りの薬草が抱えられている。
 どうやら夢穂と影雪の後を追って、運んで来てくれたらしい。

「うわあ、持ってきてくれたの? ありがとう、助かったわ」

 喜ぶ夢穂の反応に、二人は顔を見合わせると頬を赤くして照れていた。
 それからガフガフと獣らしい声で、影雪に話しかけた。
 影雪の通訳としては、彼らはまだ夢穂のために何かしたい、ということらしい。
 それならばと、夢穂は続きのやり方を教えた。
 肉球のある虎と狼の手では薬草は洗いにくいかな、とも思ったが、本人たちがやる気なので、任せることにした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

令和欲張りギャグコメディ「しまづの県」

郭隗の馬の骨
ファンタジー
現代っぽい日の本でお菓子製造を営む株式会社しまづの面々と全国の戦国時代にどこかで聞いたような人々があれこれするお話。 随所にアニメや漫画などのパロディーを散りばめて、戦国島津を全く知らない人にも楽しんでもらいつつ、島津の魅力を味わってもらおう、ついでにアニメ化やゲーム化やいろんなタイアップを欲張りに求めていくスタイル! 登場人物は戦国島津、戦国武将、島津ゆかりの風味(ここ大事!)で舞台は現代っぽい感じ。(これも大事!!) このお話はギャグパロディ小説であり実在の人物や組織、団体などとは一切関係ありません。(ということにしておいてください、お願いします)

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

月華後宮伝

織部ソマリ
キャラ文芸
【10月中旬】5巻発売です!どうぞよろしくー! ◆神託により後宮に入ることになった『跳ねっ返りの薬草姫』と呼ばれている凛花。冷徹で女嫌いとの噂がある皇帝・紫曄の妃となるのは気が進まないが、ある目的のために月華宮へ行くと心に決めていた。凛花の秘めた目的とは、皇帝の寵を得ることではなく『虎に変化してしまう』という特殊すぎる体質の秘密を解き明かすこと! だが後宮入り早々、凛花は紫曄に秘密を知られてしまう。しかし同じく秘密を抱えている紫曄は、凛花に「抱き枕になれ」と予想外なことを言い出して――? ◆第14回恋愛小説大賞【中華後宮ラブ賞】受賞。ありがとうございます! ◆旧題:月華宮の虎猫の妃は眠れぬ皇帝の膝の上 ~不本意ながらモフモフ抱き枕を拝命いたします~

芙蓉は後宮で花開く

速見 沙弥
キャラ文芸
下級貴族の親をもつ5人姉弟の長女 蓮花《リェンファ》。 借金返済で苦しむ家計を助けるために後宮へと働きに出る。忙しくも穏やかな暮らしの中、出会ったのは翡翠の色の目をした青年。さらに思いもよらぬ思惑に巻き込まれてゆくーーー カクヨムでも連載しております。

グランディア様、読まないでくださいっ!〜仮死状態となった令嬢、婚約者の王子にすぐ隣で声に出して日記を読まれる〜

恋愛
第三王子、グランディアの婚約者であるティナ。 婚約式が終わってから、殿下との溝は深まるばかり。 そんな時、突然聖女が宮殿に住み始める。 不安になったティナは王妃様に相談するも、「私に任せなさい」とだけ言われなぜかお茶をすすめられる。 お茶を飲んだその日の夜、意識が戻ると仮死状態!? 死んだと思われたティナの日記を、横で読み始めたグランディア。 しかもわざわざ声に出して。 恥ずかしさのあまり、本当に死にそうなティナ。 けれど、グランディアの気持ちが少しずつ分かり……? ※この小説は他サイトでも公開しております。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

あやかし温泉街、秋国

桜乱捕り
キャラ文芸
物心が付く前に両親を亡くした『秋風 花梨』は、過度な食べ歩きにより全財産が底を尽き、途方に暮れていた。 そんな中、とある小柄な老人と出会い、温泉旅館で働かないかと勧められる。 怪しく思うも、温泉旅館のご飯がタダで食べられると知るや否や、花梨は快諾をしてしまう。 そして、その小柄な老人に着いて行くと――― 着いた先は、妖怪しかいない永遠の秋に囲まれた温泉街であった。 そこで花梨は仕事の手伝いをしつつ、人間味のある妖怪達と仲良く過ごしていく。 ほんの少しずれた日常を、あなたにも。

カタクリズム

ウナムムル
ファンタジー
ある日、世界から突如【死】が消え、生命は【不死】となった。 崩壊するヒエラルキー、加速する食糧不足…。 死者の出ない不毛な戦争が続き、疲弊した各国は代表を選抜する。 選ばれし24人の精鋭は【死の概念】が消失した原因究明のため旅立った。 そして、彼等は知る事となる。 【死の概念】の消失、それは序章でしかなかった、と……。 5章からは「小説家になろうで」でお願いします。 登録コンテンツの【カタクリズム:中編】から行けます。

処理中です...