眠りの巫女と野良狐

碧野葉菜

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やってみなくちゃ始まりません。

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 いくら風が気持ちいいとは言え、真夏の真昼、炎天下に帽子もつけず、水もない。
 熱中症になってもおかしくない状況だった。

「大丈夫ではないだろう、明らかに辛そうだ、どうしたらいい? 何が必要だ?」

 一つ目虎と筋肉狼は、後方でおろおろしている。
 あやかしはこんなことにはならないので、夢穂が今どういう状態なのかわからず困惑していた。
 本当は悟られないよう注意してやり過ごすつもりだった。しかし、心配そうに顔を覗き込んでくる影雪を見ると、ごまかす方が迷惑をかけると感じた夢穂は話すことにした。
 
「ちょっと頭が痛くて、気分が悪いけれど……涼しいところで休めばすぐよくなると思うから」
「涼しい場所だな、わかった」

 影雪はそう言うと、夢穂を抱えて瞬足移動した。

 例の鳥居がある岸壁と繋がった、山のように大きな森を駆け登る。
 なるべく標高が高く、空気が冷えた場所にやって来た影雪は、美しい渓谷の側で夢穂を降ろした。
 階段のように積まれた岩の間を、細い滝のように清らかな水が流れている。

「ここの水は赤子でも飲めるほどだ、人間が口にしても問題ないだろう」

 夢穂は正座で前傾姿勢になると、清流に両手を伸ばした。
 手のひらを繋げて作った器で水を掬い、口元に運ぶ。
 こくこくと静かに喉を鳴らしそれを飲み干すと、身体の内側から生き返るような気がした。
 渓谷に落ちないよう、影雪に肩を支えられながら、夢穂は何度かその行いを繰り返した。

 喉の渇きが満たされると、影雪に促された夢穂は、側に立っていた太い木の幹に背を預けて座った。
 重なり合うように高く伸びた緑陽樹たちが、天から降り注ぐ日差しを遮ってくれる。
 みずみずしい葉の隙間からこぼれ落ちる光は、夢穂と影雪を見守ってくれているようだ。

 自然のエアコン、カーテンが完備されているような場所で、夢穂は目を閉じて足を伸ばしながら、涼を取った。
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