眠りの巫女と野良狐

碧野葉菜

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やってみなくちゃ始まりません。

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「それは、心地いいってことじゃない?」

 影雪は視線をうろうろさせ考えた後「おお」と声を上げながら手のひらを拳で叩いた。
 なんとも古典的な仕草に、夢穂は影雪の頭上で豆電球が光った気がした。

「そう、それだな、さすが夢穂、すっきりした」
「よかったわね……でも、居心地がいいなんてよく思うわね? 私、自分で言うのもなんだけど、けっこう影雪に怒ってる気がするけど」
「それは俺が怒られるようなことをするからだろ」
「わかってるじゃない」

 夢穂は冗談ぽく笑いながら立ち上がると、移動して草摘みを始めた。

「夢穂といると、なんとなく……母さんを思い出す気がする」

 夢穂の隣で草を摘みながら、影雪は憂いを帯びた表情でつぶやくように言った。
 夢穂は少し驚いた様子で、ちらりと影雪を見たが、すぐにまた手元に視線を戻した。

「それは、私が所帯染みてるとか、口うるさいとか、そういう意味じゃなく?」
「悪い意味ではない」

 「そっか」と相槌を打ってから一拍置き、夢穂は再度口を開いた。

「影雪のお母さんって、どんな人……あやかし、だったの?」

 夢穂と影雪しかいない野原は、二人が話さないと静寂に包まれる。
 しかしそこに気まずさはなく、ただゆっくりと時が流れるのを感じるだけだ。
 影雪は、少し考えているように見えた。
 母との記憶をたどっているのだろうと、夢穂は思った。

「……怖かった」

 予想外の言葉に、夢穂は手が滑りそうになった。
 
「普段は優しかったが、悪いことをした時はひどく叱られて、鬼より怖い、と俺は思っていた」
「あ、そ、そういうことね」

 第一声が「怖い」と来たので、どれほどの鬼母だったのだろうかと心配したが、続きを聞いて安堵した。
 しかし状況はどうであれ「鬼より怖い」母を自分を見て思い出すとは、夢穂は少し複雑な心境だった。
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