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やってみなくちゃ始まりません。
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縦に長い四角形の墓石はみんな同じ大きさで、列を乱すことなく真っ直ぐに並んでいる。
そしてその表面には、名前どころか文字一つ書かれていない。
「どうやって個人のお墓を特定するの?」
「匂いだ」
影雪の答えに、夢穂はなるほど、と頷く。
人間は視覚や聴覚に頼ることが多いが、あやかしは嗅覚と、第六感というものが発達しているようだ。
「特殊な条件は別として、普通の墓地のように感じるけど……影雪は、何か普段と違うと思うことはある?」
「いや、変わりない」
とりあえず来てみたものの、無謀だったかな、と夢穂が思い始めた時、あるものに気がついた。
立ち止まった夢穂の視線が捕らえているのは、墓石の前の奇妙な膨らみだ。
眉を顰め、訝しげな表情で、姿勢を低くしそこに近づいていく。
しゃがんで確認した膨らみは、ちぎれた草と土が段になり重なっているように見える。
どう考えても不自然だ。
まるで誰かに掘り起こされ、もう一度戻されたように歪な形をしていた。
「……墓荒らし?」
夢穂は手の甲を顎に添え、つぶやいた。
もしそうだとしたら、安らかな眠りを妨害したことで、民の眠りに影響が出た可能性がある。
そう考えた夢穂は、墓石前の地面に集中しながら小走りに形跡を探し回った。
影雪はというと、頭に疑問符を浮かべながら、とりあえず夢穂を見失わないよう後をついて回っていた。
しばらくそんなことを繰り返した夢穂から「やっぱり」と小さな声が漏れる。
至るところの墓前が、先ほど見たのと同じ状態になっていたからだ。
そう疑ってよく観察しないと、見落としてしまうほどではあった。
例え元に戻したつもりでも、こうも荒らされては、墓で眠る者たちは呼び起こされそうなほど落ち着かないだろう。
墓参りに来たあやかしたちは気づかないのだろうか? と一瞬思った夢穂だったが、その理由はすぐにわかった。
まさしく、視覚より嗅覚に頼っているからだ。
そしてその表面には、名前どころか文字一つ書かれていない。
「どうやって個人のお墓を特定するの?」
「匂いだ」
影雪の答えに、夢穂はなるほど、と頷く。
人間は視覚や聴覚に頼ることが多いが、あやかしは嗅覚と、第六感というものが発達しているようだ。
「特殊な条件は別として、普通の墓地のように感じるけど……影雪は、何か普段と違うと思うことはある?」
「いや、変わりない」
とりあえず来てみたものの、無謀だったかな、と夢穂が思い始めた時、あるものに気がついた。
立ち止まった夢穂の視線が捕らえているのは、墓石の前の奇妙な膨らみだ。
眉を顰め、訝しげな表情で、姿勢を低くしそこに近づいていく。
しゃがんで確認した膨らみは、ちぎれた草と土が段になり重なっているように見える。
どう考えても不自然だ。
まるで誰かに掘り起こされ、もう一度戻されたように歪な形をしていた。
「……墓荒らし?」
夢穂は手の甲を顎に添え、つぶやいた。
もしそうだとしたら、安らかな眠りを妨害したことで、民の眠りに影響が出た可能性がある。
そう考えた夢穂は、墓石前の地面に集中しながら小走りに形跡を探し回った。
影雪はというと、頭に疑問符を浮かべながら、とりあえず夢穂を見失わないよう後をついて回っていた。
しばらくそんなことを繰り返した夢穂から「やっぱり」と小さな声が漏れる。
至るところの墓前が、先ほど見たのと同じ状態になっていたからだ。
そう疑ってよく観察しないと、見落としてしまうほどではあった。
例え元に戻したつもりでも、こうも荒らされては、墓で眠る者たちは呼び起こされそうなほど落ち着かないだろう。
墓参りに来たあやかしたちは気づかないのだろうか? と一瞬思った夢穂だったが、その理由はすぐにわかった。
まさしく、視覚より嗅覚に頼っているからだ。
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