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やってみなくちゃ始まりません。
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「夢穂、降りないのか?」
影雪の声がすぐ側に響き、夢穂は目をパチクリさせるとようやく今の状態に気づく。
予想外の目的地に圧倒されていた夢穂は、足を止めている影雪に未だ抱きかかえられたままだった。
慌てた夢穂は「降りる降りる!」と騒ぐと、数分ぶりに自分の足で地面を踏みしめた。
「そんなに急がなくても、俺は別に運んだままでもよかったんだぞ」
「い、いい、私がよくない」
へにゃりと狐耳を垂らす影雪を尻目に、夢穂は墓地に向かっていく。
本当はもう少し味わっていたかったなど、口が裂けても言えなかった。
「これ、何かで守られてるみたいだけど、私も入れるのかな?」
「残月の生命力が溢れて見えているだけだ、実態があるわけではないから問題ない」
影雪の言う通り、夢穂は膜のようなものをすり抜け、霊園の敷地内に足を踏み入れることができた。
品のある藤色の短く生えそろった草は、絨毯のようにふかふかだった。
死者の眠りを彩るように、空中浮遊を楽しむ蝶々たち。
霊園内の空気中には、その蝶々たちと同じ蓮華色の微粒子が舞い、太陽の光を受けて星屑のように煌めいていた。
浮世離れした美しい光景に、夢穂は思わずため息をついた。
辺りをきょろきょろ見回してみるが、規模が大きすぎて全貌が知れない。
「この色も残月のせいなの?」
「そうだな、あいつの妖力は目と同じ、紫のような色をしているからな」
どうやらここの空気や蝶々、草の色も、天然のものではなく残月の妖力に染まったせいらしい。
「それにしても広いわね」
「死者は全員ここに集められているからな」
墓地が一つしかないなら、古墳のように広大な敷地面積にも納得がいった。
何か手がかりがないかと、夢穂はとりあえず探索するため歩き出す。
影雪の声がすぐ側に響き、夢穂は目をパチクリさせるとようやく今の状態に気づく。
予想外の目的地に圧倒されていた夢穂は、足を止めている影雪に未だ抱きかかえられたままだった。
慌てた夢穂は「降りる降りる!」と騒ぐと、数分ぶりに自分の足で地面を踏みしめた。
「そんなに急がなくても、俺は別に運んだままでもよかったんだぞ」
「い、いい、私がよくない」
へにゃりと狐耳を垂らす影雪を尻目に、夢穂は墓地に向かっていく。
本当はもう少し味わっていたかったなど、口が裂けても言えなかった。
「これ、何かで守られてるみたいだけど、私も入れるのかな?」
「残月の生命力が溢れて見えているだけだ、実態があるわけではないから問題ない」
影雪の言う通り、夢穂は膜のようなものをすり抜け、霊園の敷地内に足を踏み入れることができた。
品のある藤色の短く生えそろった草は、絨毯のようにふかふかだった。
死者の眠りを彩るように、空中浮遊を楽しむ蝶々たち。
霊園内の空気中には、その蝶々たちと同じ蓮華色の微粒子が舞い、太陽の光を受けて星屑のように煌めいていた。
浮世離れした美しい光景に、夢穂は思わずため息をついた。
辺りをきょろきょろ見回してみるが、規模が大きすぎて全貌が知れない。
「この色も残月のせいなの?」
「そうだな、あいつの妖力は目と同じ、紫のような色をしているからな」
どうやらここの空気や蝶々、草の色も、天然のものではなく残月の妖力に染まったせいらしい。
「それにしても広いわね」
「死者は全員ここに集められているからな」
墓地が一つしかないなら、古墳のように広大な敷地面積にも納得がいった。
何か手がかりがないかと、夢穂はとりあえず探索するため歩き出す。
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