眠りの巫女と野良狐

碧野葉菜

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やってみなくちゃ始まりません。

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 残月の御殿を出ると、夢穂はその場に立ち止まり、くるりと影雪を振り返った。

「さあ、行くわよ」
「……どこにだ?」

 影雪の間の抜けた返事に、夢穂はかくんと肩を落とす。
 とても大津波から町を救った人物だとは思えない。

「さっき残月が言ってた、眠りの神の涙が落ちたっていう場所によ。影雪も知ってるんでしょ?」

 それを聞いた影雪は、ああ、と思い当たったような顔をした。

「どうして俺が知っていると?」
「遣い人や眠りのことは公にされてるから、みんな知ってるって言ったのは影雪じゃない」

 その通り。だから夢穂はあれ以上残月に質問する必要はないと思い、話を切り上げた。

「おお、そうだったな、確かに」
「もう、しっかりしてよね」

 夢穂は困ったように笑いながら、優しく影雪の肩を叩いた。

「なんていうか、残月って……人間をバカにするような、自分が偉いっていうのが言葉の端々はしばしに現れてて、おまけに女ったらしにも見えて、あまり気持ちのいい感じはしなかったけど……」

 夢穂の感想に、影雪は激しく頭を縦に振り同意を示した。
 
「でも……悪いあやかしじゃないと思うわ」

 言葉の続きに、影雪は思わずぴたりと動きを止めた。

「……どうしてそう思うんだ?」
「なんだろう、勘かな? ちょっとお兄ちゃんに通じるとこもあったからかも。何考えてるかよくわからないけど、彼なりの考えがあるのかなって」

 口元に人差し指を当て、うーんと考えながら話す夢穂。

「いいか悪いかを、どう判断するかにもよると思うが」
「それはもう、自分の感覚よね、自分を信じるしかない、影雪はもっと自信を持っていいと思うのに、何も言わないんだから」

 影雪は少し、不貞腐れたように視線を逸らす。
 これは言っても無駄だと思ってる顔だな、と夢穂にはわかった。
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