眠りの巫女と野良狐

碧野葉菜

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眠りは世界を救う、のでしょうか?

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 その時、影雪に後ろから片腕を掴まれた夢穂は、バランスを崩しそうになる。
 振り向き様に見上げた影雪は不安そうに眉を下げていて、夢穂は無性に彼を安心させたい気持ちに駆られた。

「大丈夫よ、取って食べられるわけじゃないんだから」

 夢穂は優しく影雪の手を退け笑ってみせると、畳を踏みしめ残月の前に正座した。
 壇上にいる残月は、夢穂を見下ろしながら満足そうな笑みを浮かべた。

「なかなかに気概のある娘と見た、どれ、ちと覗いてやろう」

 夢穂がその意味を模索するより先に、残月の切れ長の瞳がカッと見開かれた。
 途端、夢穂は頭の天辺を引っ張られたように、前のめりになる。
 その後、立ちくらみのような目眩が起き、一瞬だが視界が白く霞んだ。
 まるで身体の表面を一枚持って行かれたような、奇妙な感覚だった。

「な、なに、今何をしたの?」
「貴様の記憶をわれに取り込んだだけである」

 慌てる夢穂に、残月は悪びれる様子もなく答えた。
 夢穂は恐怖よりも、感心する気持ちの方が勝っていたかもしれない。

「なんて便利な術なの、羨ましいくらい」
「これはあやかしの中でも我だけが成せる技、貴様ら人間とは格が違うのだ、残念であったな」
 
 くく、と小バカにするように笑う残月にむっとする夢穂だったが、事実なので反論しようもない。
 派手さといい、自信家ぶりといい、影雪と足して二で割ればちょうどいいのでは、と夢穂は思った。

「ほう、なるほど……そういうことであったか」

 残月は夢穂の記憶を吟味するよう、頷きながら言った。
 夢穂は背筋に力を入れると、改めて残月に目的を話すことにした。

「私の記憶を読んだならわかってると思うけど、空間が不安定になってる原因を探しに来たの。私は……空間の歪みと眠りが関係してるんじゃないか、って感じてるから、何かわかることがあれば教えてほしいと思って」

 真剣に訴える様子の夢穂に対し、残月は片膝に置いた腕で頬杖をつき、特に関心もなさそうだった。
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