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眠りは世界を救う、のでしょうか?
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これはどういう状態なのか、と困惑した夢穂がちらりと影雪を見る。
すると影雪は残月を見据えたまま、顔を顰めあからさまに嫌悪を示していた。
「大人しくしておれ、騒がしくするとつまみ出すぞ」
冷たく言われても、猫と犬のあやかしはにゃ~ん、わ~ん、と甘ったるい鳴き声で頷くだけだ。どうやらこれが普段通りで、すっかり慣れているらしい。
「なんだその顔は、まだ母の死を引きずっておるのか」
影雪の耳がぴくりと動く。
「母の死からすっかりヘソを曲げ放浪人のようになりよって、上級あやかしの誇りをも捨てたのかと獄樹が嘆いておるぞ」
影雪は両手拳に力を入れ、わなわなと震えた。
獄樹は何か思うところがある様子で影雪を一瞥しただけだったが、夢穂は驚いていた。
いつも穏やかな影雪が、怒っているところを初めて見たからだ。
声を荒げるようなことはなかったが、もしかしたら言葉にならなかったのかもしれない。
夢穂は影雪の静かな反抗の中に、葛藤も感じていた。
この城に住まず総大将である残月と確執がある影雪は、下々のあやかしたちには好かれても上級あやかしたちにはあまりよく思われていないようだ。
「獄樹、貴様はもう下がってよい」
「はっ」
残月に指示されると、獄樹は礼をし後ろに下がった。
帰り際、獄樹は影雪に何か言いたげな面持ちをしていたが、結局口を開くことはなく、上ってきた階段に消えていった。
「さてと……人間の娘を連れて来るとは、どのような了見か」
紫水晶のように魅惑的な瞳が、夢穂を誘うように見つめる。
緊張感が漂う中、ごくりと息を呑んだ夢穂がここに来た理由を話そうと口を開く。
しかし、その思いが声になる前に、残月が言葉で遮った。
「まどろっこしい説明は不要……近う寄れ」
くい、と内側に動く長い人差し指に促され、夢穂は一歩踏み出そうとした。
すると影雪は残月を見据えたまま、顔を顰めあからさまに嫌悪を示していた。
「大人しくしておれ、騒がしくするとつまみ出すぞ」
冷たく言われても、猫と犬のあやかしはにゃ~ん、わ~ん、と甘ったるい鳴き声で頷くだけだ。どうやらこれが普段通りで、すっかり慣れているらしい。
「なんだその顔は、まだ母の死を引きずっておるのか」
影雪の耳がぴくりと動く。
「母の死からすっかりヘソを曲げ放浪人のようになりよって、上級あやかしの誇りをも捨てたのかと獄樹が嘆いておるぞ」
影雪は両手拳に力を入れ、わなわなと震えた。
獄樹は何か思うところがある様子で影雪を一瞥しただけだったが、夢穂は驚いていた。
いつも穏やかな影雪が、怒っているところを初めて見たからだ。
声を荒げるようなことはなかったが、もしかしたら言葉にならなかったのかもしれない。
夢穂は影雪の静かな反抗の中に、葛藤も感じていた。
この城に住まず総大将である残月と確執がある影雪は、下々のあやかしたちには好かれても上級あやかしたちにはあまりよく思われていないようだ。
「獄樹、貴様はもう下がってよい」
「はっ」
残月に指示されると、獄樹は礼をし後ろに下がった。
帰り際、獄樹は影雪に何か言いたげな面持ちをしていたが、結局口を開くことはなく、上ってきた階段に消えていった。
「さてと……人間の娘を連れて来るとは、どのような了見か」
紫水晶のように魅惑的な瞳が、夢穂を誘うように見つめる。
緊張感が漂う中、ごくりと息を呑んだ夢穂がここに来た理由を話そうと口を開く。
しかし、その思いが声になる前に、残月が言葉で遮った。
「まどろっこしい説明は不要……近う寄れ」
くい、と内側に動く長い人差し指に促され、夢穂は一歩踏み出そうとした。
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