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眠りは世界を救う、のでしょうか?
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「そうだそうだ、さっき言いかけてたこと、残月様が影雪のこと呼んでたぞ、城に行った方がいいんじゃねえか?」
影雪は八重太から目を逸らし、面倒そうに小さく息を吐いた。
「その、残月様っていうのは偉い方なの?」
「偉いなんてもんじゃねえよ、もうずっと前からあやかしたちを束ねてる総大将様だ、遣い人もされてるしな」
八重太の話に、夢穂は希望に満ちた目で影雪を見た。
「なんだ、アテがあるんじゃない、そんなすごいあやかしが遣い人をしてるなんて行かない手はないわ、何かわかるかもしれないでしょ」
「……夢穂がそう言うなら」
影雪は明らかに乗り気でない様子だった。
「影雪はちょっと変わってるからなあ、俺ら下々のあやかしをまともに相手してくれるのなんて、影雪くらいだもん。他の奴らは口も利いちゃくれねえ」
「そう、なんだ?」
「影雪はさ、なんか自然の一部っていうか、そのままで優しいんだよ、めちゃくちゃ強いんだけど偉そうにしねえし……だからすっげえ好きなんだ」
にしし、と可愛らしい牙を覗かせ笑ってみせる八重太はとても嬉しそうだった。
城に仕える者が偉く、町で働く者の地位は低いのか。それなら昔で言う、武士と農民のような格差がここにはあるのだろうか。
とはいえ、それが一概に悪いとは決めつけられない。
現代の人間社会にも、形は違えど存在する。
どれほど文明が発達しようと、知性を手に入れた時点で、区別が生まれるのは致し方ないのかもしれない。
弱肉強食や食物連鎖といった、自然原理を重んじる種族ならなおのことだろう。
「なんだよその難しそうな顔、姉ちゃんだって影雪のこと好きだろ?」
考え事をしていると不意打ちにそんなことを聞かれて、夢穂は思わず動揺した。
「え、ええ、っと」
「あ、影雪行っちまうぞ? 残月様に用事があったんじゃねえの?」
「ああっ」
砂浜を踏みしめ先を歩く影雪の背中を、急いで追う夢穂。
岸辺には刀を持たないあやかしたちが集まり、災害を治めた影雪に感謝の言葉を伝えていた。
影雪は八重太から目を逸らし、面倒そうに小さく息を吐いた。
「その、残月様っていうのは偉い方なの?」
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「なんだ、アテがあるんじゃない、そんなすごいあやかしが遣い人をしてるなんて行かない手はないわ、何かわかるかもしれないでしょ」
「……夢穂がそう言うなら」
影雪は明らかに乗り気でない様子だった。
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「そう、なんだ?」
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「なんだよその難しそうな顔、姉ちゃんだって影雪のこと好きだろ?」
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「え、ええ、っと」
「あ、影雪行っちまうぞ? 残月様に用事があったんじゃねえの?」
「ああっ」
砂浜を踏みしめ先を歩く影雪の背中を、急いで追う夢穂。
岸辺には刀を持たないあやかしたちが集まり、災害を治めた影雪に感謝の言葉を伝えていた。
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