58 / 175
眠りは世界を救う、のでしょうか?
15
しおりを挟む
「……そんなことはない。単に刀の力だろう」
仮に刀がすごかったとしても、それを使いこなせるだけの才能や技量がなければ意味がないだろう。
そんなことは夢穂にも簡単に想像がついた。
しかし影雪は謙遜しているわけではなく、特別視されることをあまり好んでいないように感じた。
夢穂は少し躊躇いながら、影雪に差し出された手を取った。
立たせてもらいながら、指の尖った爪まで銀色なんだな、などと考えていた。
影雪の妖力で固められた津波は、水の流れをそのまま残し、芸術的なオブジェのようになっていた。
「ちっ」
ふと、どこからか舌打ちが聞こえ、夢穂は後ろを振り返った。
すると少し離れた砂浜の上に、耳が隠れる長さの黒髪に、金色の目と褐色の肌をした青年が立っていた。
鉄色の鎖かたびらのような衣装を身につけ、腰に脇差しのような短刀が見受けられる彼は、憎々しい目で影雪を睨みつけていた。
「野良狐が……でしゃばりやがって」
彼は吐き捨てるように言うと、踵を返した。
その背中にはカラスのような漆黒の翼が生えていた。
「何あれ、感じ悪い」
「気にするな、いつものことだ」
むっとする夢穂に対し、影雪は淡々としている。何かあきらめているような、世捨て人のような空気が、影雪にはあった。
「いつものこと、って」
「えいせーーつ!」
つい先ほどと同じような場面。
岸辺から元気よく手を振り、走ってきたのは八重太だ。
「やっぱりすげえよ影雪は! 俺もそんなあやかしになりてえなあ」
影雪の前で両手に力を入れ、興奮気味に話す八重太。
影雪は嫌がる素振りもないが、喜ぶ様子もない。
「ねえ、八重太くん、さっき黒い羽をした褐色肌のあやかし? がいたんだけど」
「ああ、そりゃ獄樹様だな」
「ごく、じゅ?」
「残月様に仕えてる上級あやかしだよ、刀を持ってる強いあやかしはみんな城に士官するんだ、あんたそんなことも知らねえでよくこの世界に来たなあ」
またまたグサッと刺さることを言われ、夢穂は苦笑いをした。
仮に刀がすごかったとしても、それを使いこなせるだけの才能や技量がなければ意味がないだろう。
そんなことは夢穂にも簡単に想像がついた。
しかし影雪は謙遜しているわけではなく、特別視されることをあまり好んでいないように感じた。
夢穂は少し躊躇いながら、影雪に差し出された手を取った。
立たせてもらいながら、指の尖った爪まで銀色なんだな、などと考えていた。
影雪の妖力で固められた津波は、水の流れをそのまま残し、芸術的なオブジェのようになっていた。
「ちっ」
ふと、どこからか舌打ちが聞こえ、夢穂は後ろを振り返った。
すると少し離れた砂浜の上に、耳が隠れる長さの黒髪に、金色の目と褐色の肌をした青年が立っていた。
鉄色の鎖かたびらのような衣装を身につけ、腰に脇差しのような短刀が見受けられる彼は、憎々しい目で影雪を睨みつけていた。
「野良狐が……でしゃばりやがって」
彼は吐き捨てるように言うと、踵を返した。
その背中にはカラスのような漆黒の翼が生えていた。
「何あれ、感じ悪い」
「気にするな、いつものことだ」
むっとする夢穂に対し、影雪は淡々としている。何かあきらめているような、世捨て人のような空気が、影雪にはあった。
「いつものこと、って」
「えいせーーつ!」
つい先ほどと同じような場面。
岸辺から元気よく手を振り、走ってきたのは八重太だ。
「やっぱりすげえよ影雪は! 俺もそんなあやかしになりてえなあ」
影雪の前で両手に力を入れ、興奮気味に話す八重太。
影雪は嫌がる素振りもないが、喜ぶ様子もない。
「ねえ、八重太くん、さっき黒い羽をした褐色肌のあやかし? がいたんだけど」
「ああ、そりゃ獄樹様だな」
「ごく、じゅ?」
「残月様に仕えてる上級あやかしだよ、刀を持ってる強いあやかしはみんな城に士官するんだ、あんたそんなことも知らねえでよくこの世界に来たなあ」
またまたグサッと刺さることを言われ、夢穂は苦笑いをした。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
おにぎり屋さんの裏稼業 〜お祓い請け賜わります〜
瀬崎由美
キャラ文芸
高校2年生の八神美琴は、幼い頃に両親を亡くしてからは祖母の真知子と、親戚のツバキと一緒に暮らしている。
大学通りにある屋敷の片隅で営んでいるオニギリ屋さん『おにひめ』は、気まぐれの営業ながらも学生達に人気のお店だ。でも、真知子の本業は人ならざるものを対処するお祓い屋。霊やあやかしにまつわる相談に訪れて来る人が後を絶たない。
そんなある日、祓いの仕事から戻って来た真知子が家の中で倒れてしまう。加齢による力の限界を感じた祖母から、美琴は祓いの力の継承を受ける。と、美琴はこれまで視えなかったモノが視えるようになり……。
第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。
世界的名探偵 青井七瀬と大福係!~幽霊事件、ありえません!~
ミラ
キャラ文芸
派遣OL3年目の心葉は、ブラックな職場で薄給の中、妹に仕送りをして借金生活に追われていた。そんな時、趣味でやっていた大福販売サイトが大炎上。
「幽霊に呪われた大福事件」に発展してしまう。困惑する心葉のもとに「その幽霊事件、私に解かせてください」と常連の青井から連絡が入る。
世界的名探偵だという青井は事件を華麗に解決してみせ、なんと超絶好待遇の「大福係」への就職を心葉に打診?!青井専属の大福係として、心葉の1ヶ月間の試用期間が始まった!
次々に起こる幽霊事件の中、心葉が秘密にする「霊視の力」×青井の「推理力」で
幽霊事件の真相に隠れた、幽霊の想いを紐解いていく──!
「この世に、幽霊事件なんてありえません」
幽霊事件を絶対に許さない超偏屈探偵・青木と、幽霊が視える大福係の
ゆるバディ×ほっこり幽霊ライトミステリー!
星詠みの東宮妃 ~呪われた姫君は東宮の隣で未来をみる~
鈴木しぐれ
キャラ文芸
🌸完結しました!🌸平安の世、目の中に未来で起こる凶兆が視えてしまう、『星詠み』の力を持つ、藤原宵子(しょうこ)。その呪いと呼ばれる力のせいで家族や侍女たちからも見放されていた。
ある日、急きょ東宮に入内することが決まる。東宮は入内した姫をことごとく追い返す、冷酷な人だという。厄介払いも兼ねて、宵子は東宮のもとへ送り込まれた。とある、理不尽な命令を抱えて……。
でも、実際に会った東宮は、冷酷な人ではなく、まるで太陽のような人だった。

僕は君を思うと吐き気がする
月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。
【完結】国を追われた巫女見習いは、隣国の後宮で二重に花開く
gari@七柚カリン
キャラ文芸
☆たくさんの応援、ありがとうございました!☆ 植物を慈しむ巫女見習いの凛月には、二つの秘密がある。それは、『植物の心がわかること』『見目が変化すること』。
そんな凛月は、次期巫女を侮辱した罪を着せられ国外追放されてしまう。
心機一転、紹介状を手に向かったのは隣国の都。そこで偶然知り合ったのは、高官の峰風だった。
峰風の取次ぎで紹介先の人物との対面を果たすが、提案されたのは後宮内での二つの仕事。ある時は引きこもり後宮妃(欣怡)として巫女の務めを果たし、またある時は、少年宦官(子墨)として庭園管理の仕事をする、忙しくも楽しい二重生活が始まった。
仕事中に秘密の能力を活かし活躍したことで、子墨は女嫌いの峰風の助手に抜擢される。女であること・巫女であることを隠しつつ助手の仕事に邁進するが、これがきっかけとなり、宮廷内の様々な騒動に巻き込まれていく。
※ 一話の文字数を1,000~2,000文字程度で区切っているため、話数は多くなっています。
一部、話の繋がりの関係で3,000文字前後の物もあります。
皇太后(おかあ)様におまかせ!〜皇帝陛下の純愛探し〜
菰野るり
キャラ文芸
皇帝陛下はお年頃。
まわりは縁談を持ってくるが、どんな美人にもなびかない。
なんでも、3年前に一度だけ出逢った忘れられない女性がいるのだとか。手がかりはなし。そんな中、皇太后は自ら街に出て息子の嫁探しをすることに!
この物語の皇太后の名は雲泪(ユンレイ)、皇帝の名は堯舜(ヤオシュン)です。つまり【後宮物語〜身代わり宮女は皇帝陛下に溺愛されます⁉︎〜】の続編です。しかし、こちらから読んでも楽しめます‼︎どちらから読んでも違う感覚で楽しめる⁉︎こちらはポジティブなラブコメです。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる