眠りの巫女と野良狐

碧野葉菜

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眠りは世界を救う、のでしょうか?

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 ぎゅっと瞼を閉じて駆け抜ける影雪に運ばれる中、ウー、とサイレンのような警報音が鳴るのを聞いた。

 影雪が瓦の屋根を蹴り、地に舞い降りる。
 風がやむと同時に、その場に下ろされた夢穂はようやく目を開けた。
 夢穂が座り込んだのは、真っ白な砂の上。
 そして顔を上げた先に見たものに、息を止めた。

 青い波が襲いくる。
 生き物のように形を変え、すべてをのみ込もうと上空から夢穂たちを見下す。
 恐怖を恐怖と認識する暇もないまま、夢穂は茫然と覆い被さろうとする水流を眺めた。
 
 ――ひらり。
 夢穂の頬を冷たい何かがかすめる。
 気づけば周りには何もない。
 津波の音も、砂浜さえ消え失せた、黒一色の世界。
 白く輝く雪の結晶が、はらりはらり、花弁のように舞い落ちる。
 それを背景に、影雪は姿勢を低くした。
 研ぎ澄まされた眼差しで標的を定め、刀の柄を握り、力を込めた。
 それは刹那。
 瞬きをすれば見逃してしまうほど、一瞬の出来事だった。
 影雪が氷天丸を抜き、鋭く横に振り切った。
 すると色を取り戻した世界で、夢穂の視界を覆っていた青い化け物が凍りつく。
 影雪の波を切るかのように奮われた刃から放たれた妖力が、町を壊滅させる規模の波を堰き止めたのだ。
 
 夢穂は腰を抜かしたようにその場にへたり込んだまま、影雪から目が離せなかった。
 いつもの穏やかな雰囲気とは一転、まるで別人のような影雪に、心を奪われ驚きを隠せなかった。

 影雪は立ち上がると、黒く光る刃を鞘に収め夢穂を見た。
 夢穂の心臓がドキッと跳ねる。
 影雪なのに、あやかしなのに、箸もろくに使えないくせに。
 そう脳内で抵抗してみても、かっこいいものはかっこいい。

「え、影雪ってやっぱり、すごいあやかしなんじゃない」

 目を合わせられずにぼそぼそと言う夢穂に、影雪は手を差し伸べた。
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