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眠りは世界を救う、のでしょうか?
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「夢穂は人間だからな」
影雪に言われた八重太は「えっ?」と驚きの声を漏らすと、夢穂をしげしげと見つめた。
「へ~、そうなのか、どうりで業華さんと近い匂いがするわけだ」
「自分じゃ全然わからないけど……業華は私のお兄ちゃんだから」
「兄妹? そのわりにはちっとも似てねえなあ」
うっ、と夢穂は言葉に詰まる。
純粋な童心ゆえの残酷さとも言えるだろうか。
可愛らしい顔をして、気にしていることをはっきり言うなあ、と夢穂は思った。
そんな夢穂の気持ちも知らず、八重太はまた影雪を見上げ尻尾を揺らしていた。
「なあ影雪、また剣術教えてくれよ」
刀を振る動作を披露してみせる八重太の手を見た影雪が、ふとあることに気づいた。
「その傷はどうした?」
影雪の問いかけに目を見張った八重太は、咄嗟に両手を背中に回すと、ごまかすように笑った。
「芋掘ろうとしたらちょっと怪我しちまっただけ……あっ、そんなことより剣術!」
よほど熱心に掘ろうとしたのか、ずいぶん細かい傷がついているな、と思った影雪だったが、それ以上は八重太の声に遮断された。
「別にかまわんぞ」
「やった! 影雪みたいになりたいって言ったら、ばあちゃんも応援してくれてたからな」
そう口にした後で、何かを思い出したようにハッとした八重太は、少し寂しげに目を伏せた。
影雪は「そうか」とつぶやきながら、そんな彼を見守っていた。
「ついまだいるような気がして、こんなこと口走っちまう」
「ああ……わかるぞ」
「そうだよな、影雪だって大事な母ちゃんを――あっ、そうだ、家族の話で思い出した、残月様が」
八重太が何かを言いかけた時、突如、影雪の目が鋭くなった。
夢穂と来た道と逆方向を見据えた影雪は、瞬時に夢穂を抱きかかえると膝を折り曲げ、草履の足で地面を蹴った。
あっという間に空高く舞い上がったかと思うと、瓦屋根を走り、家屋と家屋の間を飛び越え、猛スピードで進んでいく。
何が起きたのかわからない夢穂は、落っことされないよう反射的に影雪の首に抱きついた。
「な、なに、いきなりどうしたの!?」
「離れるわけにはいかないからな、しっかり掴まっておけ」
影雪は前を見たまま、夢穂に応える。
明確に目的地を見定めた目だ。
勢いをつけ、速度が増すごとに風も強くなり、夢穂はとても目を開けていられなくなる。
影雪に言われた八重太は「えっ?」と驚きの声を漏らすと、夢穂をしげしげと見つめた。
「へ~、そうなのか、どうりで業華さんと近い匂いがするわけだ」
「自分じゃ全然わからないけど……業華は私のお兄ちゃんだから」
「兄妹? そのわりにはちっとも似てねえなあ」
うっ、と夢穂は言葉に詰まる。
純粋な童心ゆえの残酷さとも言えるだろうか。
可愛らしい顔をして、気にしていることをはっきり言うなあ、と夢穂は思った。
そんな夢穂の気持ちも知らず、八重太はまた影雪を見上げ尻尾を揺らしていた。
「なあ影雪、また剣術教えてくれよ」
刀を振る動作を披露してみせる八重太の手を見た影雪が、ふとあることに気づいた。
「その傷はどうした?」
影雪の問いかけに目を見張った八重太は、咄嗟に両手を背中に回すと、ごまかすように笑った。
「芋掘ろうとしたらちょっと怪我しちまっただけ……あっ、そんなことより剣術!」
よほど熱心に掘ろうとしたのか、ずいぶん細かい傷がついているな、と思った影雪だったが、それ以上は八重太の声に遮断された。
「別にかまわんぞ」
「やった! 影雪みたいになりたいって言ったら、ばあちゃんも応援してくれてたからな」
そう口にした後で、何かを思い出したようにハッとした八重太は、少し寂しげに目を伏せた。
影雪は「そうか」とつぶやきながら、そんな彼を見守っていた。
「ついまだいるような気がして、こんなこと口走っちまう」
「ああ……わかるぞ」
「そうだよな、影雪だって大事な母ちゃんを――あっ、そうだ、家族の話で思い出した、残月様が」
八重太が何かを言いかけた時、突如、影雪の目が鋭くなった。
夢穂と来た道と逆方向を見据えた影雪は、瞬時に夢穂を抱きかかえると膝を折り曲げ、草履の足で地面を蹴った。
あっという間に空高く舞い上がったかと思うと、瓦屋根を走り、家屋と家屋の間を飛び越え、猛スピードで進んでいく。
何が起きたのかわからない夢穂は、落っことされないよう反射的に影雪の首に抱きついた。
「な、なに、いきなりどうしたの!?」
「離れるわけにはいかないからな、しっかり掴まっておけ」
影雪は前を見たまま、夢穂に応える。
明確に目的地を見定めた目だ。
勢いをつけ、速度が増すごとに風も強くなり、夢穂はとても目を開けていられなくなる。
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