眠りの巫女と野良狐

碧野葉菜

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眠りは世界を救う、のでしょうか?

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 ふと、カッパ童が影雪を振り向いた。

「これはこれは影雪様、いかがされたのですか、人間のお嬢さんをお連れとは」

 夢穂は「えっ」と小さくも驚きの声を上げた。

「どうして私が人間だってわかったの?」
「それはもう、あの業華殿に近い匂いがしてございますので、間違いないかと。あの方は一応人の子のようでございますので」

 実に単純な答えに、夢穂はなるほどと納得した。業華はあやかしたちの中でも、知られた存在のようだ。

「しかし、他の人間がこちらに来るなど、まさか遣い人が変わったのでございますか?」
「いや、そうではない」

 影雪の答えを聞いたカッパ童は、安心したような表情をした。

「業華殿は千年以上も前からでございますので、今更別の方に変わられたら皆戸惑ってしまいます」
「せん、ねん……?」
「ええ、先祖から語り継がれている話でございますので、私も詳しいことはわかりかねますが」

 一体、どうやって千年も生き長らえることができるのか? 
 ただの言い伝えか、それとも。
 
「ではなぜお嬢さんはここに?」
「それは空間のゆが」

 夢穂の咄嗟の判断で、影雪の言葉は遮られた。
 業華の逸話も吹き飛ぶほど、驚くようなことを話そうとする影雪の口を急いで塞いだからだ。
 影雪は苦しそうにしながらも、大人しく夢穂にされるがままになっている。

「今なんと?」
「いえ、何も! ちょっと野暮用というか、遊びに来たというか……決して怪しいものじゃありません!」

 カッパ童と奇うさぎが不思議そうにする中、夢穂は影雪の耳を引っ張った。

「いきなり空間が歪んでる、なんて言ったらみんなを不安にさせるんじゃないのっ、もっと考えてからしゃべってよ!」
「そ、そうか、確かにそうだな、すまなかった」

 怒りながら囁く夢穂に、影雪は掴まれた耳をへにゃりと下げて謝った。
 遣い人や異世界のシステムは公にされているとはいえ、自分たちでもまだよくわかっていない空間の歪みについて、一般人……一般あやかしに告げるのはよくないだろうと、夢穂が機転を利かせた。
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