眠りの巫女と野良狐

碧野葉菜

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あやかしの世界に行ってみましょう。

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「くれぐれも夢穂と離れないよう、細心の注意を払ってください。夢穂も、影雪から離れないよう気をつけるのですよ」
「ああ、わかっている」
「そんなに心配しなくても、あやかしの世界ってそこまで危なくないんじゃないの……?」

 口を酸っぱくして言う業華に、どこかぴんと来ない様子の夢穂。

「影雪しか知らなければそう思うのも無理はありませんけどね。すべてのあやかしが影雪のように穏やかで、すべての人間が夢穂のように聡ければ、世界は二つに分断されることもなかったかもしれません」
「それって……」
「ええ、元は一つの世界だった……と言われていますから」

 ふと、夢穂の心に影が落ちる。
 
「そ、っか……私、なんだか知らないことばかりね」
「知らない方が幸せなこともありますからねぇ……」

 そう言って笑う業華はどこか寂しげで、夢穂は少しだけ胸のざわめきを感じた。
 だけど今はそんなことを気にしている場合ではないと、迷いを振り切る。
 夢穂の気持ちに合わせるように、波紋が揺らめくようだった。
 
 業華が後ろに下がり、夢穂と影雪が鳥居のすぐ前に出る。
 すると突然影雪が手を握ってきて、夢穂は驚いて身体をびくつかせた。

「ち、ちょっと、何するのよ」
「離れるなと言われたのをいいことに手を繋いでみたが、業華に怒られそうだから早く行った方がいいと思う」
「嘘がつけないにもほどがありますよ」

 戸惑いながらも嫌がる様子のない夢穂と、真顔だがどこか嬉しそうな影雪に、業華は気が抜けるようだった。

「夢穂の通紋はあくまで仮ですから、実際影雪と手を繋いでいった方が安全でしょうね。次元の狭間はざまに連れて行かれては大変でしょうから」
「次元の狭間、って……?」

 夢穂の問いかけに、業華はうーん、と顎に手をやった。

「人とあやかしの世界を繋ぐ、ハンバーグで言うつなぎのパン粉のようなものですよ」
「パン粉……」
「意識はしませんが必ずそこにあるものです……では影雪、あやかしたちによろしく」

 そう言うと業華はにこやかに手を振り、二人を送り出した。
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