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あやかしの世界に行ってみましょう。
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「まあまあ夢穂、あちらには箸などを扱う文化がありませんので」
「……そうよね、一体どんな場所なのか、見てみるのが楽しみだわ」
夢穂の台詞に、耳を疑った業華が手を止めて後ろを振り返った。
影雪は箸の持ち方に苦戦している。
「今……なんと言いましたか、夢穂」
「私、あやかしの世界に……影雪の住んでいる場所に、行く」
これにはさすがの影雪も目を剥いた。
おまけに噛んでいた箸を折った。
「俺の世界に……夢穂が、来る?」
影雪の中に、夢穂が来た場合の想像が膨らんだ。
業華は洗った手を拭くと、いそいそと夢穂の側にやって来た。
「なぜそんなことを言うのです?」
「空間の歪み……」
夢穂はぽつりとつぶやくと、顔を上げ真剣な眼差しで業華を見た。
「影雪が向こうにいる時、眠れなかったって。影雪だけじゃなく、他のあやかしたちも。もしかしたら、それと空間に歪みができてることに、何か関係があるかもしれない。お兄ちゃんいつも言ってるよね、眠りの不安定は世界の不安定だって。なら世界の不安定は、空間の不安定に繋がってるんじゃないかなっ、て」
思いきったような夢穂の進言を、業華は正座しながら黙って聞いていた。
「夢穂、あなたまさか、記憶が……」
これには夢穂は首を傾げた。
もしや、と浮かんだ業華の思考は、夢穂の様子で先走った杞憂だとわかった。今の時点では。
「いえ、なんでもありませんよ」
業華は取り繕うように微笑むと、言葉を続けた。
「ここで私がやめなさいと言っても、恐らく夢穂は聞かないでしょう? もう覚悟を決めている顔つきをしていますからね、なんとしてでも行くつもりでしょう」
夢穂はその通りだと言いたげに深く頷く。
「しかし、いくらあなたが眠りの巫女だからといっても、それはあくまでこちらの世界での話。向こうでそれが通用するかはわかりませんよ、私も例がないことはなんとも言えません、行ったところで無駄足になる可能性も高い」
「……そうよね、一体どんな場所なのか、見てみるのが楽しみだわ」
夢穂の台詞に、耳を疑った業華が手を止めて後ろを振り返った。
影雪は箸の持ち方に苦戦している。
「今……なんと言いましたか、夢穂」
「私、あやかしの世界に……影雪の住んでいる場所に、行く」
これにはさすがの影雪も目を剥いた。
おまけに噛んでいた箸を折った。
「俺の世界に……夢穂が、来る?」
影雪の中に、夢穂が来た場合の想像が膨らんだ。
業華は洗った手を拭くと、いそいそと夢穂の側にやって来た。
「なぜそんなことを言うのです?」
「空間の歪み……」
夢穂はぽつりとつぶやくと、顔を上げ真剣な眼差しで業華を見た。
「影雪が向こうにいる時、眠れなかったって。影雪だけじゃなく、他のあやかしたちも。もしかしたら、それと空間に歪みができてることに、何か関係があるかもしれない。お兄ちゃんいつも言ってるよね、眠りの不安定は世界の不安定だって。なら世界の不安定は、空間の不安定に繋がってるんじゃないかなっ、て」
思いきったような夢穂の進言を、業華は正座しながら黙って聞いていた。
「夢穂、あなたまさか、記憶が……」
これには夢穂は首を傾げた。
もしや、と浮かんだ業華の思考は、夢穂の様子で先走った杞憂だとわかった。今の時点では。
「いえ、なんでもありませんよ」
業華は取り繕うように微笑むと、言葉を続けた。
「ここで私がやめなさいと言っても、恐らく夢穂は聞かないでしょう? もう覚悟を決めている顔つきをしていますからね、なんとしてでも行くつもりでしょう」
夢穂はその通りだと言いたげに深く頷く。
「しかし、いくらあなたが眠りの巫女だからといっても、それはあくまでこちらの世界での話。向こうでそれが通用するかはわかりませんよ、私も例がないことはなんとも言えません、行ったところで無駄足になる可能性も高い」
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