眠りの巫女と野良狐

碧野葉菜

文字の大きさ
上 下
37 / 175
あやかしの世界に行ってみましょう。

5

しおりを挟む
「おやおや、昨日だけでずいぶん仲良くなったようですねぇ」

 気づけば業華は自分の狐うどんを綺麗に平らげ洗い物まで済ますと、夕飯の下ごしらえをするため割烹着を身につけ台所に立っていた。
 職務だけならず家事まで流れるようにさばくその姿はまさに神業かみわざ……いや、仏業ほとけわざ
 
「べ、別に仲良くなったわけじゃないけど」

 業華の声で我に返った夢穂は、影雪から離れると姿勢を正して残りのうどんを食べた。
 ぺったんぺったんと、業華が手のひらでハンバーグの形を整える音がする。
 仏教の観点から業華は食肉はしないが、それを他の者に押しつける気はない。
 そのため業華の分は豆腐ハンバーグだが、夢穂の分は育ち盛りの栄養価を考えた、牛と豚の合い挽き肉のハンバーグだ。仕方がないので影雪の分も作ってやる。
 和洋折衷、いいと思ったものは取り入れる、積極的なハイカラ坊主である。

「狐っぽい部分が無理なら、麺だけ食べたら?」

 夢穂が油揚げを取り除くと、影雪は安心したように器を持ち上げ口をつける。
 当然そんなことをすれば、汁がこぼれる。

「あっ、あー! もう、服についちゃったじゃない、どうするのよこれ、一張羅でしょ」

 ぶつぶつ文句を言いながらも影雪の和服についた汁を布巾で拭い、世話をする夢穂。
 その図はまるで母親と幼児のようだ。

「私がやった方が早いわね、はい、どうぞ」

 夢穂はあきらめたように、影雪用に置いていたねずみ色の箸でうどんを掬い、食べさせた。

「ふまひ」
「口にものが入ったまましゃべらないの」

 あぐらをかいたまま大きな口を開け、あれよあれよと麺を飲み込んでいく影雪。
 
「……そう言えば影雪って何歳なの?」
「二百二歳だ」

 そう言った途端、影雪の口に箸が突っ込まれた。

「自分で食べなさい!」

 予想を遥かに上回る年齢に、自分のしていることがバカらしくなった夢穂は餌づけを放棄した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

隣の家に住むイクメンの正体は龍神様でした~社無しの神とちびっ子神使候補たち

鳴澤うた
キャラ文芸
失恋にストーカー。 心身ともにボロボロになった姉崎菜緒は、とうとう道端で倒れるように寝てしまって……。 悪夢にうなされる菜緒を夢の中で救ってくれたのはなんとお隣のイクメン、藤村辰巳だった。 辰巳と辰巳が世話する子供たちとなんだかんだと交流を深めていくけれど、子供たちはどこか不可思議だ。 それもそのはず、人の姿をとっているけれど辰巳も子供たちも人じゃない。 社を持たない龍神様とこれから神使となるため勉強中の動物たちだったのだ! 食に対し、こだわりの強い辰巳に神使候補の子供たちや見守っている神様たちはご不満で、今の現状を打破しようと菜緒を仲間に入れようと画策していて…… 神様と作る二十四節気ごはんを召し上がれ!

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

蛇に祈りを捧げたら。

碧野葉菜
キャラ文芸
願いを一つ叶える代わりに人間の寿命をいただきながら生きている神と呼ばれる存在たち。その一人の蛇神、蛇珀(じゃはく)は大の人間嫌いで毎度必要以上に寿命を取り立てていた。今日も標的を決め人間界に降り立つ蛇珀だったが、今回の相手はいつもと少し違っていて…? 神と人との理に抗いながら求め合う二人の行く末は? 人間嫌いであった蛇神が一人の少女に恋をし、上流神(じょうりゅうしん)となるまでの物語。

おっ☆パラ

うらたきよひこ
キャラ文芸
こんなハーレム展開あり? これがおっさんパラダイスか!? 新米サラリーマンの佐藤一真がなぜかおじさんたちにモテまくる。大学教授やガテン系現場監督、エリートコンサル、老舗料理長、はたまた流浪のバーテンダーまで、個性派ぞろい。どこがそんなに“おじさん心”をくすぐるのか? その天賦の“モテ力”をご覧あれ!

おにぎり屋さんの裏稼業 〜お祓い請け賜わります〜

瀬崎由美
キャラ文芸
高校2年生の八神美琴は、幼い頃に両親を亡くしてからは祖母の真知子と、親戚のツバキと一緒に暮らしている。 大学通りにある屋敷の片隅で営んでいるオニギリ屋さん『おにひめ』は、気まぐれの営業ながらも学生達に人気のお店だ。でも、真知子の本業は人ならざるものを対処するお祓い屋。霊やあやかしにまつわる相談に訪れて来る人が後を絶たない。 そんなある日、祓いの仕事から戻って来た真知子が家の中で倒れてしまう。加齢による力の限界を感じた祖母から、美琴は祓いの力の継承を受ける。と、美琴はこれまで視えなかったモノが視えるようになり……。 第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

処理中です...