眠りの巫女と野良狐

碧野葉菜

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あやかしの世界に行ってみましょう。

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「おやおや、昨日だけでずいぶん仲良くなったようですねぇ」

 気づけば業華は自分の狐うどんを綺麗に平らげ洗い物まで済ますと、夕飯の下ごしらえをするため割烹着を身につけ台所に立っていた。
 職務だけならず家事まで流れるようにさばくその姿はまさに神業かみわざ……いや、仏業ほとけわざ
 
「べ、別に仲良くなったわけじゃないけど」

 業華の声で我に返った夢穂は、影雪から離れると姿勢を正して残りのうどんを食べた。
 ぺったんぺったんと、業華が手のひらでハンバーグの形を整える音がする。
 仏教の観点から業華は食肉はしないが、それを他の者に押しつける気はない。
 そのため業華の分は豆腐ハンバーグだが、夢穂の分は育ち盛りの栄養価を考えた、牛と豚の合い挽き肉のハンバーグだ。仕方がないので影雪の分も作ってやる。
 和洋折衷、いいと思ったものは取り入れる、積極的なハイカラ坊主である。

「狐っぽい部分が無理なら、麺だけ食べたら?」

 夢穂が油揚げを取り除くと、影雪は安心したように器を持ち上げ口をつける。
 当然そんなことをすれば、汁がこぼれる。

「あっ、あー! もう、服についちゃったじゃない、どうするのよこれ、一張羅でしょ」

 ぶつぶつ文句を言いながらも影雪の和服についた汁を布巾で拭い、世話をする夢穂。
 その図はまるで母親と幼児のようだ。

「私がやった方が早いわね、はい、どうぞ」

 夢穂はあきらめたように、影雪用に置いていたねずみ色の箸でうどんを掬い、食べさせた。

「ふまひ」
「口にものが入ったまましゃべらないの」

 あぐらをかいたまま大きな口を開け、あれよあれよと麺を飲み込んでいく影雪。
 
「……そう言えば影雪って何歳なの?」
「二百二歳だ」

 そう言った途端、影雪の口に箸が突っ込まれた。

「自分で食べなさい!」

 予想を遥かに上回る年齢に、自分のしていることがバカらしくなった夢穂は餌づけを放棄した。
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