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なんだかんだ、仲良くなります。
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夢穂はいったん帰宅し学校のカバンを置くと、代わりに竹を編んで作られた深いザルのような入れ物を手にする。
他の僧侶に教えを説いている業華に草摘みをする断りを入れると、夢穂は再度外に出た。
癒枕寺神社は標高が高く、美しい自然とともにある。
そのおかげで地上の熱気が嘘のように、真夏でも清涼感が保たれている。
爽やかな風にそよぐ生え揃った薬草たちは、裏庭の原っぱ、よりも草原といった表現の方が相応しい。
花のように派手な麗しさはないが、生まれたての新緑のようなみずみずしさは心が洗われるようで、いつまで見ていても飽きない。
夢穂は両腕に収まる大きさの竹ザルを近くの岩肌に置くと、草摘みを始めた。
「この草を刈り取ればいいのだな?」
夢穂に黙ってついて来ていた影雪がそんなことを口にしたかと思うと、突如腰に差した日本刀らしきものの鞘を持ち上げ始めた。
黒く輝く刃を見た夢穂は、ぎょっとして握っていた草を落とした。
「ちょっと、何する気!?」
「これで切れば早いかと思い」
「思い、じゃないわよ、早ければいいってもんじゃないんだから」
夢穂は影雪を嗜めると、やり方を教えるからと言ってまずは手を合わせた。
影雪はおかしなものでも見るかのような、訝しげな表情をしている。
「朝飯の時にもやっていた、それはなんだ?」
「ありがとうって気持ちを込めたり、お願いをする時にこうするのよ」
そう言って夢穂は腰を低くすると、一枚一枚、手のひらに込めた草を丁寧に抜き集めていく。
影雪はそれをぼんやりと眺めていた。
「……面倒ではないのか?」
「気持ちを込めて大事に摘むと時間がかかるのは仕方がないでしょう。植物だって生きてるんだもの、命をもらうんだからこれくらいの敬意は当たり前よ」
額ににじむ汗を拭いながら黙々と作業を続ける夢穂を見て、影雪は刀を鞘に収めた。
そして夢穂の側で、ようやくまともな草摘みに取りかかった。
てっきり嫌になってどこかへ行くと思っていた夢穂は、見様見真似で作業に取り組む影雪が意外だった。
影雪は夢穂の姿を盗み見ていた。
白く、まだ幼なさの残る手には小さな傷がついていて、なぜそこまでがんばるのかと不思議に感じながら、なかなか目が離せなかった。
他の僧侶に教えを説いている業華に草摘みをする断りを入れると、夢穂は再度外に出た。
癒枕寺神社は標高が高く、美しい自然とともにある。
そのおかげで地上の熱気が嘘のように、真夏でも清涼感が保たれている。
爽やかな風にそよぐ生え揃った薬草たちは、裏庭の原っぱ、よりも草原といった表現の方が相応しい。
花のように派手な麗しさはないが、生まれたての新緑のようなみずみずしさは心が洗われるようで、いつまで見ていても飽きない。
夢穂は両腕に収まる大きさの竹ザルを近くの岩肌に置くと、草摘みを始めた。
「この草を刈り取ればいいのだな?」
夢穂に黙ってついて来ていた影雪がそんなことを口にしたかと思うと、突如腰に差した日本刀らしきものの鞘を持ち上げ始めた。
黒く輝く刃を見た夢穂は、ぎょっとして握っていた草を落とした。
「ちょっと、何する気!?」
「これで切れば早いかと思い」
「思い、じゃないわよ、早ければいいってもんじゃないんだから」
夢穂は影雪を嗜めると、やり方を教えるからと言ってまずは手を合わせた。
影雪はおかしなものでも見るかのような、訝しげな表情をしている。
「朝飯の時にもやっていた、それはなんだ?」
「ありがとうって気持ちを込めたり、お願いをする時にこうするのよ」
そう言って夢穂は腰を低くすると、一枚一枚、手のひらに込めた草を丁寧に抜き集めていく。
影雪はそれをぼんやりと眺めていた。
「……面倒ではないのか?」
「気持ちを込めて大事に摘むと時間がかかるのは仕方がないでしょう。植物だって生きてるんだもの、命をもらうんだからこれくらいの敬意は当たり前よ」
額ににじむ汗を拭いながら黙々と作業を続ける夢穂を見て、影雪は刀を鞘に収めた。
そして夢穂の側で、ようやくまともな草摘みに取りかかった。
てっきり嫌になってどこかへ行くと思っていた夢穂は、見様見真似で作業に取り組む影雪が意外だった。
影雪は夢穂の姿を盗み見ていた。
白く、まだ幼なさの残る手には小さな傷がついていて、なぜそこまでがんばるのかと不思議に感じながら、なかなか目が離せなかった。
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