眠りの巫女と野良狐

碧野葉菜

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なんだかんだ、仲良くなります。

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 教師と生徒たちの視線は、起立している夢穂ではなくガラス一枚隔てた先に注がれていた。
 みんなの驚きと好奇心を込めたような目に、夢穂は悟った。
 これは、見えている。

「やだぁちょっと、あのコスプレの超絶イケメン誰っ?」

 夢穂の一つ前の席に座った美菜に至っては、瞳がハート型と化す始末だ。
 完璧に、見えている。

 いや、そこはあやかしの都合のいい能力か何かで姿を消すとかではないのか。心に直接語りかけることはできるのに身を隠すことはできないのか、それともやる気がないだけなのか。夢穂は頭の中に湧き上がる疑問と不満で目が回りそうだった。

 そんな夢穂の困惑などどこ吹く風、影雪は窓ガラスの縁を手にし横に開くと、軽やかな身のこなしで教室内に舞い降りた。
 窓は割らずに開けて入るということは理解しているようだ。いや、そもそも窓は人物が出入りする場所ではなく風を通すための設備だが。しかも鍵がかけられたまま開かれたので見事に破損している。しかし腕力か妖力ようりょくが強すぎるせいか、本人は壊したことにすら気づいていないようだった。

 夢穂のクラスに馳せ参じた影雪は、秀麗な真顔のまま室内を見渡しながら歩く。

「おとこおんな、おとこおんな、おんなおんな、おとこおとこ」

 周りにいる生徒たちを指差しながら、順に性別を読み上げていく影雪。
 今朝のやり取りで、人間の男女の違いに興味でも湧いたのだろうか。
 しかし残念ながら高確率で外れていた。

「ちょっと……何しに来たの」

 ここまで来たら放って置くわけにはいかないと、夢穂の中に保護者の責任感が生まれた。
 ざわめく教室内で、立ち上がった美菜がすかさず夢穂の隣につけた。

「この人夢穂の知り合いなの? ほんと夢穂の周りって不思議な人が多いよね」
「知り合い、っていうか」

 「紹介してよっ」と鼻息を荒くしながら言ってくる美菜に、夢穂は辟易しながらもすごい適応力だなと感じていた。
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