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なんだかんだ、仲良くなります。
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癒枕寺神社は俗世からかけ離れた空間だが、山を下り外へ出れば何の変哲もない日常が流れている。
そんな当たり前の生活に紛れ込むと、つい自分の立場を忘れてしまいそうになる時もある。
影雪のことも記憶の奥に押しやりかけていたのに、美菜の言葉で完全に復活してしまった。
帰らないと言ったからには、しばらく居座るつもりだろう。
となれば帰宅すればまたあれと会う羽目にるのか。そう思うと夢穂はため息しか出なかった。
担任が教室に入ってくると同時に、学校のチャイムが鳴る。
仲のいいメンバーで集まっていた生徒たちは、それぞれ自分の席に着いた。
ホームルームが終わり、滞りなく一時間目の授業が始まる。
二十人ほどの生徒たちは机に国語の教材を出し、教師が黒板に記した内容を白いノートに書き移していく。
どこにでもある、一つの学校のいつもの光景だ。
「では那霧さん、続きを読んでください」
教科書を朗読していた教師に指名され、夢穂は「はい」と通りのよい声で返事をするとその場に立ち上がった。
背筋を伸ばし、めくったページに印字された冒頭を口に出そうとした時だった。
『それはなんだ?』
「これは教科書と言って……」
脳内に直接語りかけるような声が響き、夢穂は思わず答えを返してしまった。
その直後、当然異変に気づいた夢穂は、顔を上げて辺りを見回した。
やがて視線は窓の外で止まる。
目が合った。ちょうど同じ高さに当たる木に楽々と座ったあれと。
帰宅を待たずして数分ぶりの再会を果たしてしまった夢穂は、驚きのあまり悲鳴を上げそうになるのをなんとか堪えた。
きっと彼の姿は自分や業華など特別な力がある者にしか見えないはず。ならばここで動揺したら変だと思われるのは自分だと判断したからだ。
ここはもう無視を決めるしかない、帰ったら散々説教してやろう……山ほどある言いたいことを飲み込んで、目元と口元を引き攣らせながら震える教科書に視線を戻す。
しかし事態は夢穂の想像とは別の方向に動いていた。
そんな当たり前の生活に紛れ込むと、つい自分の立場を忘れてしまいそうになる時もある。
影雪のことも記憶の奥に押しやりかけていたのに、美菜の言葉で完全に復活してしまった。
帰らないと言ったからには、しばらく居座るつもりだろう。
となれば帰宅すればまたあれと会う羽目にるのか。そう思うと夢穂はため息しか出なかった。
担任が教室に入ってくると同時に、学校のチャイムが鳴る。
仲のいいメンバーで集まっていた生徒たちは、それぞれ自分の席に着いた。
ホームルームが終わり、滞りなく一時間目の授業が始まる。
二十人ほどの生徒たちは机に国語の教材を出し、教師が黒板に記した内容を白いノートに書き移していく。
どこにでもある、一つの学校のいつもの光景だ。
「では那霧さん、続きを読んでください」
教科書を朗読していた教師に指名され、夢穂は「はい」と通りのよい声で返事をするとその場に立ち上がった。
背筋を伸ばし、めくったページに印字された冒頭を口に出そうとした時だった。
『それはなんだ?』
「これは教科書と言って……」
脳内に直接語りかけるような声が響き、夢穂は思わず答えを返してしまった。
その直後、当然異変に気づいた夢穂は、顔を上げて辺りを見回した。
やがて視線は窓の外で止まる。
目が合った。ちょうど同じ高さに当たる木に楽々と座ったあれと。
帰宅を待たずして数分ぶりの再会を果たしてしまった夢穂は、驚きのあまり悲鳴を上げそうになるのをなんとか堪えた。
きっと彼の姿は自分や業華など特別な力がある者にしか見えないはず。ならばここで動揺したら変だと思われるのは自分だと判断したからだ。
ここはもう無視を決めるしかない、帰ったら散々説教してやろう……山ほどある言いたいことを飲み込んで、目元と口元を引き攣らせながら震える教科書に視線を戻す。
しかし事態は夢穂の想像とは別の方向に動いていた。
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