眠りの巫女と野良狐

碧野葉菜

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なんだかんだ、仲良くなります。

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 袋も薬草も、まったく同じものを使っているのに、その匂いは受け取る相手によって変わる。
 夢穂が心を込めて触れると、その人が望む、好きな匂いになるのだ。
 つまり沙子は爽やかでクールな匂い、美菜はお菓子のような甘い匂いが好みということ。
 匂いと眠りはとても深い関係にある。
 例えどれだけ清潔に整えられた部屋に、柔らかな寝具を用意されていようと、そこにある匂いが苦手ならどうだろう?
 落ち着かなったり、気分が悪くなったり、とてもリラックスして眠りにつくことができない。
 より良質な睡眠を得るために時には好みの匂いを提供する、眠りの巫女は香りの巫女でもあった。

 三人で談笑していると、クラスメイトの男子が一人、夢穂に話しかけに来た。

「なあなあ、こないだ那霧ん家の癒枕寺神社ってところに行こうとしたんだけどさ、どこにあるかわからなかったんだよ」
「こいつ、さっきからこんなことばっか言ってんだけど、方向音痴やばくねえ?」

 先に来た男子生徒をフォローするように、もう一人の男子生徒が口を挟んだ。
 どちらも今風のやんちゃそうなタイプだ。

「何しに来るつもりだったの?」
「パワースポットと名高い場所の写真をSNSに載せたら人気者になれるかなと思って」
「……そんな理由だからよ」

 ぽそっとつぶやいた夢穂の言葉は誰にも拾われることなく、男子生徒は首を傾げた。
 夢穂は何事もなかったかのように笑顔を作って続ける。

「ちゃんと地図通りに来たらたどり着くはずよ」
「それが探してる時地図アプリが起動しなくてさ、山の中で電波悪いからかな?」
「それはないわ、私そこに住んでるけどいつも電波の調子いいし。スマホが故障してるんじゃない?」
「おかしいなぁ」

 頭を掻く男子生徒に「そうだそうだ」と、沙子と美菜も賛同した。
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