眠りの巫女と野良狐

碧野葉菜

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はじめまして、野良狐です。

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 夢穂はどうしても聞きたいことがあり、斜め横で冷めた煮物を頬張っている影雪を見た。

「……で、なんで私の布団にいたの?」

 影雪は口につけていた器を外し、食事を中断すると夢穂を見た。

「気づいたらここに来ていた。廊下をうろうろしていたらどんどん眠くなって……適当に部屋に入ると布団が見えたから、寝た」

 要するに、たまたま立ち寄ったのが夢穂の寝所で、そこにたまたま気持ちよさそうな布団が見えたから潜り混んで寝たのだと。
 まだまともに恋もしたことのない乙女にとって、あやかしであれ異性と寝床をともにするというのがどれほど重大なことか。まったく意識する様子のない影雪に、夢穂はムカっ腹が立った。

「あやかしの世界では女の子が寝ているところに勝手に踏み込むのが当たり前なの? ずいぶんと無粋ね」

 嫌味の一つでも言ってやったつもりだったが、影雪は少し驚いたように目を丸くして顔を近づけた。

「お前、女なのか?」

 急接近して来たかと思えば、犬がお座りするような形で四方八方からふんふんと匂いを嗅がれ、夢穂は正座したまま顔を青くしていた。
 それを業華が見逃すはずもなく、影雪の頭上に錫杖しゃくじょうの先端が奮われた。
 僧侶の持ち物である銀製の細長い棒に、遊輪ゆうかんと呼ばれる複数の輪っかがついている、170センチほどあるそれは業華より背が低く、影雪に近い。
 仏に仕える身で暴力は罰当たりとも思われそうだが、錫杖は昔から武器として扱われていたこともあり、むしろ正しい使い方と言えるだろう。

「痛い。触ってないからいいのではないのか」
「触れなかったら何をしてもいいわけではありませんよ、まったく油断も隙もありませんね」

 ぶつけられた頭を撫でる影雪だが、とてもダメージを受けているようには見えない。
 この男は肉体も精神も強い……というよりは、よほど鈍感に違いないと夢穂は思った。
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