眠りの巫女と野良狐

碧野葉菜

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はじめまして、野良狐です。

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 そしてしゃもじを放り出すと、大股開きで部屋に入り、人か獣かわからないものに近づいた。

「おお、やはり影雪ではありませんか! なぜここに……おやおや?」

 僧侶は影雪と呼んだ彼の顔を両手のひらでがちりと掴み、遠慮なしにその左頬を凝視した。
 黒水晶のように神秘的な瞳の下、頬に沿って雫のような黒い粒が三つ、続いていた。

「ほほう、雪のような涙のような、風情のある通紋つうもんですねぇ、まさか同時代にもう一人これが現れようとは……吉報か、それとも不吉な予感か……」

 影雪の白い頬を大福を潰すかのようにぺたんこにしながら、何やらぶつぶつと独り言を並べる僧侶。
 やられている本人は、何を語るでもない目でされるがままになっている。
 
「お兄ちゃん、知り合いなの?」

 蚊帳の外にいるような気分になった夢穂は、納得いかない様子で尋ねた。
 すると僧侶はようやく影雪を離すと、夢穂を振り返った。

「ええ、古くからの、ね」

 含み笑いをする僧侶に、夢穂は思い当たることがあった。

「もしかして、別世界の……?」
「当然でしょう、こちらの世界にこんなのがいたらみんなびっくりしますよ」
「人……獣?」
「あやかしですよ。人ならざるもの、とはいえ、獣ではありません。ねえ、影雪」

 影雪はあぐらをかいたまま、確かめるように僧侶の顔をじっと見ていた。

「……お前、業華ごうかか?」

 僧侶は一瞬真顔になったのち、にこりと微笑むとこう答えた。

「ええ。三年ほど前に会って以来ですね」

 影雪は少し不思議そうに首を傾げた。

「お兄ちゃんが別世界とこの世界を移動できることは聞いてるけど、それ以上のことは知らないからちんぷんかんぷんだわ。詳しく説明してよ」
「そうですね、とりあえずは朝餉あさげにしましょうか。せっかくの白米が冷めてしまいますので」
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