3 / 4
序章
第三話 新たな世界
しおりを挟む
血の匂いがする。
その血の匂いは男の刺し傷から出るものではなく、シャツに染みついた血の匂いだった。
こんなにも濃い血の匂いを嗅いだことはなかった。
痛々しい匂いに気を悪くしていると、別の匂いがそれを攫った。
花のような、洗剤のような。鼻で感じられる美しさ、というべきだろうか。
一度嗅いだら忘れることのない良い香り。
その匂いに男は何の根拠もなく安堵した。
匂いに気を取られ、自分がどこにいるか理解していなかったが、改めて見回すと想像したこともないような奇異な場所だった。
まず目に映るのは大きく真っ白で、まるで本来ないはずの重量を感じられるような雲。
そんな雲が自分の手が届くような高さに離れた位置で無数に並んでいる。
足元には黄金色の丈の長く、膝下まである草が水平線の向こうまで生えている。
時折風が草の頭を攫い、波を作る。
見渡す限り山や海はなく、ただひたすら黄金に輝く草原が続いている。
初めて見る光景に男は見入った。
「綺麗、、、」
何故こんなところにいるのか。
そんなことを考えることもなく見入っていた。
後ろから強い風が吹き、少し伸びた男の髪を攫う。
それと共に風は男の鼻に先ほどの鼻の香りを届ける。
男は香りの方向を頭で追った。
その先には長い金髪に、青い目。水色のローブを羽織った背丈の小さな少女が何かを見送るように水平線の向こうを見ていた。
その横顔は下心を消し去るような純粋且つ美麗なものだった。
その少女に少し見入った後、少女は男に気づいた。
少女は弱々しく男に微笑み、話した。
『こんにちは』
少女は戸惑う男の返答を待ち、首をかしげる。
「こんにちは。」
『ふふっ』
何かおかしいものを見たかのように笑顔を漏らす。
『そんなに落ち着いている人を見るの初めて。』
「はは、、、」
彼女は男に目を合わせるのに躊躇がないが、男はその美しい青目に目を向ける勇気がなかった。
『君は』
『死んだの。』
自身が理解していることを彼女が再確認する。
「ああ、、、わかってる」
何故彼女は男を死を知っているのか。
そんな事象はこの美しく異様な草原では不思議にもならない。
「俺はこれから、、、どうなる?」
その答えを彼女が知っているという確証が彼にはあった。
『君は新しい世界に行くの。』
「あたらしい、、、せかい、、、」
輪廻転生。それはこのことを言うのだろうか。
『君のいく世界はね。スキルがいるの。』
「スキル?」
元いた世界でのスキルというのは営業や販売をスムーズに行う技術のことを示した。
しかし、彼はそんなことを思い出さず、いや、そんなことを忘れていたのかもしれない。
スキルという言葉を初めて知るかのように彼女の説明を待った。
『人を救うにはスキルがいる。』
『これはゲームやアニメの話じゃない。』
彼女の口から語られる非現実はどんな事実や科学的根拠もねじ曲げる、強く信憑性のあるものに聞こえた。
『君にこれ以上ここにいる時間はない。』
『スキルを得て、急いで世界に落ちて。』
そう言った直後、少女は5本の指をくっつけ、胸元に手を置く。
目を閉じて、何の言語かわからない呪文を細い声で唱えた。
すると、少女の前に白く美しい球体が現れる。
『さあ、ここに入って。』
「、、、」
男は自我を失ったかのように少女に従い、球体に近寄る。
『中に入ったらレバーを引いて。』
その言葉を最後まで聞かずに男は球体に吸い込まれていった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
吸い込まれついた先は真っ白な世界だった。
「ここは、、、」
言われた通り、レバーを探す。
すると、真っ白な光景の中に斜めに浮く、黒いオーラを放った棒状のものを見つけた。
男は近寄り、恐る恐る棒に触れる。
ぼわっという炎のような音が響く。
勇気を出して棒を下に引き下ろす。
ガシャっと音が鳴ると同時にタラララララというルーレットが回る音が鳴る。
ルーレットの音はいつまで経っても止まず、不思議がっていると、急に機械的な声でアナウンスらしきものが入った。
“個体名、半田直哉のスキルスロット3つのうち、2つ分の破損を確認。”
理解のし難い内容。
“修復を試みます。”
理解のないまま話は進む。
“現時点での修復を不可能と判断。スキルスロット1つのみでのステータス作成を試みます。”
しかし、ことが上手く進んでいないのは何とかく理解した。
“成功。スキルスロットのランダム選択を続行します。”
“スキル 「植物」 が確定いたしました。”
という音声が終わると、ハンダの前に透き通ったのトランプカードほどのサイズの長方形が現れる。
“スキルコードを手にお取りください。”
この長方形がスキルコードであると考え、それに手を触れる。
すると、長方形が消え、ハンダの体に波が走る。
そして、最後のアナウンスが流れる。
“準備が整いました。新たな世界へのロードを開始いたします。”
そのアナウンスが終わった直後、ハンダの足がガラスの破片のように宙に散り始めた。
破片に変わる速度はどんどん加速し、ハンダの全身が散るまでにそれほど時間はかからなかった。
男の破片は一つのまとまりとなり、目にも止まらぬ速さでその場を去った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
その次に男の意識が覚醒したのはよく見るオフィスの中だった。
その血の匂いは男の刺し傷から出るものではなく、シャツに染みついた血の匂いだった。
こんなにも濃い血の匂いを嗅いだことはなかった。
痛々しい匂いに気を悪くしていると、別の匂いがそれを攫った。
花のような、洗剤のような。鼻で感じられる美しさ、というべきだろうか。
一度嗅いだら忘れることのない良い香り。
その匂いに男は何の根拠もなく安堵した。
匂いに気を取られ、自分がどこにいるか理解していなかったが、改めて見回すと想像したこともないような奇異な場所だった。
まず目に映るのは大きく真っ白で、まるで本来ないはずの重量を感じられるような雲。
そんな雲が自分の手が届くような高さに離れた位置で無数に並んでいる。
足元には黄金色の丈の長く、膝下まである草が水平線の向こうまで生えている。
時折風が草の頭を攫い、波を作る。
見渡す限り山や海はなく、ただひたすら黄金に輝く草原が続いている。
初めて見る光景に男は見入った。
「綺麗、、、」
何故こんなところにいるのか。
そんなことを考えることもなく見入っていた。
後ろから強い風が吹き、少し伸びた男の髪を攫う。
それと共に風は男の鼻に先ほどの鼻の香りを届ける。
男は香りの方向を頭で追った。
その先には長い金髪に、青い目。水色のローブを羽織った背丈の小さな少女が何かを見送るように水平線の向こうを見ていた。
その横顔は下心を消し去るような純粋且つ美麗なものだった。
その少女に少し見入った後、少女は男に気づいた。
少女は弱々しく男に微笑み、話した。
『こんにちは』
少女は戸惑う男の返答を待ち、首をかしげる。
「こんにちは。」
『ふふっ』
何かおかしいものを見たかのように笑顔を漏らす。
『そんなに落ち着いている人を見るの初めて。』
「はは、、、」
彼女は男に目を合わせるのに躊躇がないが、男はその美しい青目に目を向ける勇気がなかった。
『君は』
『死んだの。』
自身が理解していることを彼女が再確認する。
「ああ、、、わかってる」
何故彼女は男を死を知っているのか。
そんな事象はこの美しく異様な草原では不思議にもならない。
「俺はこれから、、、どうなる?」
その答えを彼女が知っているという確証が彼にはあった。
『君は新しい世界に行くの。』
「あたらしい、、、せかい、、、」
輪廻転生。それはこのことを言うのだろうか。
『君のいく世界はね。スキルがいるの。』
「スキル?」
元いた世界でのスキルというのは営業や販売をスムーズに行う技術のことを示した。
しかし、彼はそんなことを思い出さず、いや、そんなことを忘れていたのかもしれない。
スキルという言葉を初めて知るかのように彼女の説明を待った。
『人を救うにはスキルがいる。』
『これはゲームやアニメの話じゃない。』
彼女の口から語られる非現実はどんな事実や科学的根拠もねじ曲げる、強く信憑性のあるものに聞こえた。
『君にこれ以上ここにいる時間はない。』
『スキルを得て、急いで世界に落ちて。』
そう言った直後、少女は5本の指をくっつけ、胸元に手を置く。
目を閉じて、何の言語かわからない呪文を細い声で唱えた。
すると、少女の前に白く美しい球体が現れる。
『さあ、ここに入って。』
「、、、」
男は自我を失ったかのように少女に従い、球体に近寄る。
『中に入ったらレバーを引いて。』
その言葉を最後まで聞かずに男は球体に吸い込まれていった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
吸い込まれついた先は真っ白な世界だった。
「ここは、、、」
言われた通り、レバーを探す。
すると、真っ白な光景の中に斜めに浮く、黒いオーラを放った棒状のものを見つけた。
男は近寄り、恐る恐る棒に触れる。
ぼわっという炎のような音が響く。
勇気を出して棒を下に引き下ろす。
ガシャっと音が鳴ると同時にタラララララというルーレットが回る音が鳴る。
ルーレットの音はいつまで経っても止まず、不思議がっていると、急に機械的な声でアナウンスらしきものが入った。
“個体名、半田直哉のスキルスロット3つのうち、2つ分の破損を確認。”
理解のし難い内容。
“修復を試みます。”
理解のないまま話は進む。
“現時点での修復を不可能と判断。スキルスロット1つのみでのステータス作成を試みます。”
しかし、ことが上手く進んでいないのは何とかく理解した。
“成功。スキルスロットのランダム選択を続行します。”
“スキル 「植物」 が確定いたしました。”
という音声が終わると、ハンダの前に透き通ったのトランプカードほどのサイズの長方形が現れる。
“スキルコードを手にお取りください。”
この長方形がスキルコードであると考え、それに手を触れる。
すると、長方形が消え、ハンダの体に波が走る。
そして、最後のアナウンスが流れる。
“準備が整いました。新たな世界へのロードを開始いたします。”
そのアナウンスが終わった直後、ハンダの足がガラスの破片のように宙に散り始めた。
破片に変わる速度はどんどん加速し、ハンダの全身が散るまでにそれほど時間はかからなかった。
男の破片は一つのまとまりとなり、目にも止まらぬ速さでその場を去った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
その次に男の意識が覚醒したのはよく見るオフィスの中だった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
名前を書くとお漏らしさせることが出来るノートを拾ったのでイジメてくる女子に復讐します。ついでにアイドルとかも漏らさせてやりたい放題します
カルラ アンジェリ
ファンタジー
平凡な高校生暁 大地は陰キャな性格も手伝って女子からイジメられていた。
そんな毎日に鬱憤が溜まっていたが相手が女子では暴力でやり返すことも出来ず苦しんでいた大地はある日一冊のノートを拾う。
それはお漏らしノートという物でこれに名前を書くと対象を自在にお漏らしさせることが出来るというのだ。
これを使い主人公はいじめっ子女子たちに復讐を開始する。
更にそれがきっかけで元からあったお漏らしフェチの素養は高まりアイドルも漏らさせていきやりたい放題することに。
ネット上ではこの怪事件が何らかの超常現象の力と話題になりそれを失禁王から略してシンと呼び一部から奉られることになる。
しかしその変態行為を許さない美少女名探偵が現れシンの正体を暴くことを誓い……
これはそんな一人の変態男と美少女名探偵の頭脳戦とお漏らしを楽しむ物語。
男女比1:10000の貞操逆転世界に転生したんだが、俺だけ前の世界のインターネットにアクセスできるようなので美少女配信者グループを作る
電脳ピエロ
恋愛
男女比1:10000の世界で生きる主人公、新田 純。
女性に襲われる恐怖から引きこもっていた彼はあるとき思い出す。自分が転生者であり、ここが貞操の逆転した世界だということを。
「そうだ……俺は女神様からもらったチートで前にいた世界のネットにアクセスできるはず」
純は彼が元いた世界のインターネットにアクセスできる能力を授かったことを思い出す。そのとき純はあることを閃いた。
「もしも、この世界の美少女たちで配信者グループを作って、俺が元いた世界のネットで配信をしたら……」
タイムワープ艦隊2024
山本 双六
SF
太平洋を横断する日本機動部隊。この日本があるのは、大東亜(太平洋)戦争に勝利したことである。そんな日本が勝った理由は、ある機動部隊が来たことであるらしい。人呼んで「神の機動部隊」である。
この世界では、太平洋戦争で日本が勝った世界戦で書いています。(毎回、太平洋戦争系が日本ばかり勝っ世界線ですいません)逆ファイナルカウントダウンと考えてもらえればいいかと思います。只今、続編も同時並行で書いています!お楽しみに!
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる